瀬戸内を味わう、寄り道の列車etSETOra瀬戸内を味わう、寄り道の列車etSETOra

SIDE STORY01

「etSETOra」のはじまりを語る。

etSETOra
誕生の舞台裏

瀬戸内の穏やかな海を窓越しに眺めながら、思い思いのときを過ごす──。一人で本を読む人、夫婦で記念日を祝う人、ただ静かに景色に身を委ねる人。観光列車「etSETOra」は、目的地へ向かうための移動ではなく、列車の中で過ごす時間そのものを旅として味わうための列車です。

車内で提供される広島産のスイーツやお酒とおつまみを味わうのもよし、会話を楽しむのも、何もしない時間を楽しむのも自由。瀬戸内の景色とともに、それぞれのリズムで過ごすことが、この列車では大切にされています。

移動を豊かなひとときへと変えるこの列車は、どのように誕生し、どこへ向かっているのでしょうか。今回は、etSETOra立ち上げの中心人物の一人、JR西日本中国統括本部広島支社地域共生室(以下、JR西日本)の古村涼さんに、コンセプトづくりからネーミング、デザインまで、誕生の舞台裏を伺いました。さらに、運行開始から年月を重ねた現在の魅力や、これからの展望にも迫ります。

etSETOra立ち上げに携わった、古村涼さん

瀬戸内に生まれた、旅のかたち。

etSETOraは、広島~三原間を基本に運行していた「瀬戸内マリンビュー」の車両を改造し、新たなコンセプトを加えて誕生した観光列車だ。JR西日本の古村さんは、山口県の観光列車「〇〇のはなし」の立ち上げ経験を持つことから白羽の矢が立ち、運行区間やコンセプトの設定、車内で提供する地元産品、ネーミング、外装や内装など、列車の個性を形づくる重要な役割に関わることとなった。

計画は、どの区間を走らせるか、どんな体験を提供するかという議論から始まった。検討を重ねた末、運行区間は瀬戸内の景色を最大限楽しめる広島~尾道間に決定。コンセプトづくりでは、クリエイターの力も借りながら「列車ならではの価値」を問い続け、浮かび上がったのが車窓を流れる瀬戸内の景色とともに楽しめる「食」の体験だった。往路では広島産スイーツを、復路では広島産のお酒とおつまみを提供することが決定した。

車窓いっぱいに広がる、瀬戸内海の風景

名前に託した、「etSETOra」という思想。

ネーミングは、社内で案を出し合い、古村さん考案の「etSETOra」が満場一致で採用された。ラテン語の「エトセトラ」に由来し、「そのほか、いろいろ」という意味を持つ。加えて、「たくさんの」という意味の広島弁「えっと」も重ねており、瀬戸内にあるたくさんの魅力に触れながら、乗客それぞれが自由な時間を楽しんでほしいという思いが込められている。ロゴは「SETO」を大文字にすることで、瀬戸内という舞台を強く印象づけている。

外装は、瀬戸内の凪いだ海と砂浜をイメージしたコバルトブルーとホワイトを基調に、太陽に反射して輝く水面をゴールドの緩やかな波線で表現した。内装は、多様なニーズに応えるため、一人席からグループ席まで用意。約3時間半におよぶ乗車でも快適に過ごせるよう、古村さん自ら座席の専門メーカーに赴き、何度も座って最適な柔らかさの座面を選び抜いた。

こうした試行錯誤を経て、2020年10月にetSETOraは広島~尾道間で運行を開始。2025年3月には新幹線の接続駅でもある福山まで延伸し、現在も運行を続けている。

思い思いの時間を受け止める、etSETOraの座席

旅を彩る、自由な過ごし方。

etSETOra最大の魅力は、瀬戸内の多島美を眺めながら過ごす、ゆったりとした時間だ。目的地へ急ぐのではなく、車窓の景色とともに移動そのものを楽しむことを大切にしている。新幹線の「のぞみ」「さくら」「みずほ」の場合、約22~25分で走る広島から福山までを、約3時間半かけて運行。「時間を贅沢に使う価値を感じてもらえるのがetSETOraの醍醐味です」と古村さんは胸を張る。

その贅沢な時間を演出するのが、全車グリーン席のラグジュアリーな空間、そして広島ならではのスイーツ詰め合わせとお酒やおつまみだ。スイーツ詰め合わせは「瀬戸の小箱」として展開され、往路と復路で内容を変えながら、旅の時間に寄り添う“食の体験”を用意している。お酒は復路で提供され、広島の地酒やビール、ウイスキー、ジン、浄酎など多彩なラインナップ。「口福」という言葉がふさわしい、広島ならではの味わいを堪能できる。

旅の時間に寄り添う、スイーツセット「瀬戸の小箱」

思い思いに過ごす、車内の風景。

こうした体験の提供により、etSETOraは今や多様な乗客に愛される存在となった。一人旅を楽しむ人、夫婦や友人同士、家族連れ、さらには海外からの旅行者まで、車内にはさまざまな人の姿がある。それぞれが思い思いに過ごしているのも特徴だ。車窓にカメラを向ける人、スイーツやお酒を堪能する人、記念日を祝う人。

中には、一人で本を読んだり、パソコンを開いて執筆活動に没頭したりと、古村さんが想定していなかった方法で過ごす人もいる。こうした乗客を目にするたび、古村さんは「列車が新しい価値を提供できている」と感じ、感慨深いという。つくり手として、これ以上ない喜びを感じる瞬間だ。

途中下車を前提に旅を組み立てる人が多いのも、etSETOraらしい光景だ。忠海から港に向かい、フェリーで「うさぎ島(大久野島)」に渡る人、竹原や三原、尾道で降りて観光を楽しむ人など、目的地はそれぞれ異なる。観光列車の使命の一つである「地域への誘客」も果たしながら、 etSETOraは乗客に新しい旅のスタイルを提案し続けている。

大久野島(うさぎ島)へ向かう人が下車する、忠海駅

挑戦の先にある、新しい景色。

2025年に5周年を迎えたetSETOra。立ち上げ当初は40代以上の利用を想定しており、その層から確かな支持を得てきた。現在では世代の幅が広がりつつあるものの、若い世代の利用はまだ少ない。今後はそうした若い世代にも魅力を届けるため、工夫を重ねていきたいという。

その第一歩が、車内で提供されている「SETO Blue Coffee」。鮮やかなブルーのシロップを使用したコーヒーで、SNS映えするビジュアルから若い世代にも好評を得ている。こうした新商品の開発にも積極的に取り組み、etSETOraをこれからも進化させていく考えだ。

今回、古村さんにお話を伺う中で印象的だったのは、その語り口だ。コンセプトやネーミング、デザイン、サービスまで、すべてが頭に入っており、よどみなく話してくれた。「妥協しない自分ができたのは、この列車を立ち上げたからかもしれません」と笑う古村さん。その言葉から、立ち上げにかけた熱意と、etSETOraへの深い愛情が伝わってきた。

運行開始から年月を重ねてなお進化を続けるetSETOraは、古村さんの情熱とともに、これからも新しい物語を紡いでいく。瀬戸内の海を背景に、次の挑戦がどんな景色を見せてくれるのか。ぜひ、あなたの目で確かめてほしい。

瀬戸内を味わう、寄り道の列車etSETOra
瀬戸内を味わう、寄り道の列車etSETOra
瀬戸内を味わう、寄り道の列車etSETOra
瀬戸内を味わう、寄り道の列車etSETOra
瀬戸内を味わう、寄り道の列車etSETOra
瀬戸内を味わう、寄り道の列車etSETOra

人、まち、社会の
つながりを進化させ、
心を動かす。
未来を動かす。