SIDE STORY01
「機関士・機関助士」の思いを知る。
SLやまぐち号は、保存展示ではなく、今も営業列車として山口線を走り続けています。その最前線に立つのが、機関士と機関助士です。今回お話を伺ったのは、機関士の大井勝裕さんと、機関助士の三好講平さん。2人はSLやまぐち号に乗務する一方で、山口線・宇部線・小野田線で気動車や電車にも乗務する現役の運転士でもあります。
日常と非日常を行き来しながら蒸気機関車を走らせる。その現場で何を考え、どんな責任を背負っているのか。2人の言葉から、その仕事の内側に迫ります。
機関士の大井さん(右)と機関助士の三好さん(左)
大井さんと三好さんは、ともに現在も気動車や電車に乗務する現役の運転士である。SLやまぐち号に乗務する日も、前後の日には通常の列車に乗務している。だからこそ、SLは「非日常の仕事」でありながら、あくまで日常業務の延長線上にあるという感覚が強い。
ただし、機関室に立った瞬間、その感覚は大きく切り替わる。電車の運転はシステムに支えられ、一定の操作で安定した走行が保たれる。一方、蒸気機関車はすべてが人の手に委ねられている。音、振動、匂い、そしてボイラー圧力の上がり具合。五感を研ぎ澄ませ、そのすべてを感じ取りながら、次の操作を判断していく。列車を運転することは同じであっても、SLに限っては、気動車や電車の運転とは別世界。求められる感覚もまったく異なる。
大井さんは、SLの運転について「難しいからこそ、運転している実感がある」と語る。天候はもちろん、気温や湿度によっても状態は変わり、同じ走りは二度とない。判断の積み重ねがそのまま走りに表れる点に、責任の重さとやりがいを感じているという。観光列車であっても、営業列車であることに変わりはない。安全に、定刻で走らせる。その当たり前を守るという意味では、普段の乗務と責任の重さは変わるものではない。
蒸気を生み出すため、火室に石炭を投炭する機関助士・三好さん
SLやまぐち号の機関室には、機関士と機関助士という明確に異なる役割がある。大井さんは、2017年にSLやまぐち号の現場に入り、機関助士として経験を積んだのち、2024年に機関士となった。もともとは電車及び気動車の運転士として働いており、強い憧れがあってSLの世界に入ったわけではない。上司からの言葉をきっかけに、自分の幅を広げる挑戦として、この現場を選んだ。
三好さんは、2020年頃からSLやまぐち号に関わり、現在は機関助士として乗務している。機関助士の仕事は、石炭をくべ、火勢を見極めながら、線路の勾配等に合わせて必要な蒸気を生み出し続けることだ。ボイラー圧力が下がれば列車は力を失い、一方で必要以上の投炭は限られた石炭の無駄な消耗につながる。常に先を読みながら、走りを支える準備を続ける必要がある。
蒸気機関車は、二人で一つの存在である。三好さんが生み出した蒸気を、大井さんがどう使うか。その使い方一つで、機関助士の負担も、列車の走りも変わってくる。三好さんは、機関士ごとの運転の違いを間近で見ながら、自身の判断力を磨いている段階だという。
言葉を多く交わさなくても、機関車の音やボイラーの状態で互いの状況が伝わる。その関係性は、一朝一夕で築けるものではない。日々の運転と経験の積み重ねが、機関室の中に確かな信頼をつくり上げている。
新山口駅到着時の機関士・大井さん
山口線は勾配やカーブが多く、蒸気機関車にとって決して走りやすい路線ではない。特に坂道では、空転すれば一気に失速し、最悪の場合は途中で止まってしまう可能性もある。だからこそ、大井さんと三好さんの連携は欠かせない。言葉を交わさずとも、機関車が語りかけてくる音や振動、ボイラーの昇圧具合などから状況を判断・共有し、走りを組み立てていく。
営業列車として走る以上、止まることは許されない。そのために、訓練では坂道発進も繰り返し行われている。実際の運行で車両不具合に起因するものを除き立ち往生したことがないという事実が、現場で積み重ねられてきた準備と判断の確かさを物語っている。大井さんが何度も口にしたのは、「支えてくれる人がいるから走れる」という実感だった。沿線で手を振る人、駅で列車を待つ人、遠方から足を運んでくれる乗客。その一つひとつの存在が、機関室に立つときの気持ちを引き締めてくれるという。D51が復活した際にかけられた「おかえり」という声は、今も強く心に残っている言葉だ。
蒸気機関車は、決して一人では走れない。機関士と機関助士の連携だけでなく、整備を担う人、運行を支える人、そして迎えてくれる沿線の方々の存在があって、初めて成り立つ。大井さんは、SLやまぐち号を「特別な列車でありながら、特別扱いされすぎない存在」でありたいとも語る。観光列車である前に、あくまで営業列車として、当たり前に安全に走り続けること。その積み重ねこそが、信頼につながると考えている。新幹線や最新の車両が行き交う時代に、蒸気機関車を選んで乗ってくれる人がいる。その期待に応えるため、今日も機関室に立つ。
SLやまぐち号が現役で走り続けている理由は、機械の性能だけではない。走らせることの重みを理解し、支えてくれる人への感謝を忘れず、次の一日へとつなげていく。その姿勢そのものが、この列車を走らせ続けている。
人、まち、社会の
つながりを進化させ、
心を動かす。
未来を動かす。