山口線を走る、時代を超えた列車SLやまぐち号山口線を走る、時代を超えた列車SLやまぐち号

SIDE STORY03

「津和野町観光協会」の視点に触れる。

SLを迎える町
津和野

SLやまぐち号の終点・津和野駅。その列車を迎える側には、長年この列車と向き合い続けてきた人たちがいます。

今回お話を伺ったのは、一般社団法人 津和野町観光協会の福田聖馬さんと坂﨑勝美さん。福田さんはSLファンとしての思いをきっかけに観光協会に所属し、津和野駅に展示されているD51形蒸気機関車の整備も担っています。一方、坂﨑さんは元SLやまぐち号の指導運転士・機関士として長年運行に携わってきた人物であり、津和野町近郊に生まれ育った一人でもあります。

迎える側から見たとき、SLやまぐち号はどんな存在なのか。その視点から、津和野町と列車の関係をひもときます。

津和野町観光協会の福田さん(右)と坂﨑さん(左)

日常にある、SL。

津和野町にとって、SLやまぐち号は明確な観光資源である。しかし同時に、特別なイベントとして消費される存在ではなく、日常の延長にある列車として受け入れられてきた。坂﨑さんは、沿線で手を振る人々の姿に、その関係性がよく表れていると話す。煙や汽笛に対する苦情はほとんどなく、SLが走ることを前提に暮らしが成り立っている空気があるという。

山口線が開通したのは1922年。1973年に一度蒸気機関車が姿を消したものの、1979年にSLやまぐち号として復活して以降、走っていなかった期間はわずか6年ほどにすぎない。100年以上の歴史の中で見れば、「SLが走っている状態」のほうが、この地域にとっては自然な姿とも言える。

観光客だけのものでも、地域のためだけのものでもない。SLやまぐち号は、その中間にありながら、町の時間の中にしっかりと組み込まれてきた存在だ。

SLやまぐち号を迎える、津和野駅の駅舎

関わり続ける理由。

福田さんが津和野町観光協会に所属するようになった背景には、純粋なSLへの思いがある。幼い頃から蒸気機関車に親しみ、SLファンとして津和野に通い続けていた福田さんは、2022年に観光協会が津和野駅の指定管理を受けたことを機に、この場所で働くようになった。

現在は、駅業務やイベント企画に加え、津和野駅前に展示されているD51形蒸気機関車の整備も担当している。塗装をすべて剥がして塗り直す作業や、細部の状態確認など、その内容は決して表面的なものではない。本職として学んだ技術ではなく、仲間から教わりながら、一つひとつ身につけてきたものだ。

一方、坂﨑さんは元JR社員として、鉄道を生活の足として見てきた立場にある。現役時代とは違い、今は「迎える側」として列車に関わっているが、鉄道を安全に、当たり前に走らせるという感覚は変わらないという。

立場は違っても、2人に共通しているのは、「SLやまぐち号は、乗る人だけのものではない」という認識だ。撮る人、迎える人、見守る人。そのすべてが関わって、列車は走り続けている。

石畳が続く、津和野町の日常の風景

歩いて感じる、津和野。

津和野町は、山々に囲まれた盆地に広がる城下町である。かつての町割りが今も残り、白壁の建物や掘割が続く殿町通りをはじめ、歴史の積み重ねが日常の風景として息づいている。観光地として知られてはいるが、その佇まいはどこか静かで、過度な演出を感じさせない。

町を歩いていると、視界に入るのは名所だけではない。水路を流れる水の音、店先で交わされる言葉、生活の延長としてそこにある景色が、自然と目に留まる。津和野の魅力は、特定のスポットに集約されるものではなく、歩くことで少しずつ染み込んでくるような感覚にある。

津和野町には、太皷谷稲成神社をはじめとする信仰の場や、森鷗外記念館、美術館などの文化施設も点在している。城下町としての歴史、文学や芸術、信仰といった要素が、無理なく同じ町の中に共存している点も、この場所ならではの特徴だ。それぞれが主張しすぎることなく、町の時間の中に溶け込んでいる。

飲食や土産物においても、津和野らしさは静かに表現されている。派手さはなくとも、土地の素材や歴史に根ざした味や品が並び、歩く途中で立ち寄る時間そのものが、旅の一部となっていく。

急がず、比べず、ただ歩く。津和野町は、そうした過ごし方を自然と受け入れてくれる町である。

JR西日本 SLやまぐち号
JR西日本 SLやまぐち号
JR西日本 SLやまぐち号
JR西日本 SLやまぐち号
JR西日本 SLやまぐち号

トンネルの、その先。

坂﨑さんが特に印象に残っているのが、津和野駅手前、最後のトンネルを抜けた瞬間の風景だという。いくつものトンネルを越えた先で、盆地に広がる津和野の町並みが一気に視界に入る。その眺めは、列車でたどり着いたからこそ味わえる体験だ。

車で訪れるのとは違い、列車では町を「上から」眺める時間がある。福田さんも、「車で来るより、列車の方がきれいに見える」と話す。SLやまぐち号は、津和野を目的地として運ぶだけでなく、風景ごと体験させてくれる列車なのだ。

津和野駅に到着してから復路の発車までは約3時間。町を歩き、立ち止まり、景色に触れるには十分な時間がある。それでも2人は、「一度では足りない」と口をそろえる。

迎える人がいて、支える人がいて、走り続ける列車がある。その関係性こそが、SLやまぐち号が今も津和野町にとって欠かせない存在であり続ける理由なのだ。

SLやまぐち号から望む、太皷谷稲成神社

山口線を走る、時代を超えた列車 SLやまぐち

人、まち、社会の
つながりを進化させ、
心を動かす。
未来を動かす。