福山市/広島

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福山市/広島

戸田 拓夫_キャステム

2025.10.01

福山市に本社を置き、精密鋳造部品の製造販売を主軸に展開する「キャステム」。小ロット品や難物にも柔軟に対応するなど、付加価値の高いサービスを提供しています。社員たちの創造力が光るオリジナル製品の開発にも意欲的で、人気アニメとコラボレーションした「モンスターボール虫かご」は、累計販売数50万個を突破しています。また、農業分野など異業種への挑戦にも積極的に取り組んでいます。さらに、精密鋳造事業においては、フィリピン、タイ、アメリカ、コロンビアに拠点を構えるグローバルグループを展開し、世界市場でのプレゼンスも高めています。

株式会社キャステムの代表取締役を務める戸田拓夫さん。会社の舵取りを担う一方で、「折り紙ヒコーキ協会」の会長も務めるなど、その活動は多岐にわたります。さらに、「紙飛行機の最も長い滞空時間」でギネス世界記録を保持しているというから驚きです。既存の枠にとらわれない事業展開と、ものづくりへの飽くなき情熱はどこから生まれてくるのでしょうか。キャステムの歩みと戸田さんの思いに触れながら、その原動力と企業の本質を探りました。

社員食堂で思いを語る、代表の戸田さん

鋳造技術のルーツは製菓業にあり

今では、ロストワックス精密鋳造やメタルインジェクション(MIM)技術を核に、さまざまな産業分野に向けた精密部品の製造を手がけているキャステムだが、その起源は1948年にさかのぼる。もともとは製菓業として創業し、製菓機械の部品を自社で製造する過程で精密鋳造技術を確立。1970年に鋳造部門が独立して「キングインベスト株式会社」が設立され、2001年に「株式会社キャステム」へと社名を改めた。

戸田さんが入社したのは23歳のとき。現場に専念していた初代の父に代わり、若くして経営の第一線に立つこととなった。当時は経営状況が非常に厳しく、管理体制の見直しや営業強化に取り組む一方、組織全体の緩慢な雰囲気を刷新することにも力を注いだ。独自技術の確立とスピード感を武器に、他社が敬遠するような難易度の高い案件にも果敢に挑戦し、次第に業界内での地位を築いていった。

こうした経験を通じて、戸田さんは「企業の成長には人を大切にすることが不可欠である」と確信するようになる。「人がいなければ、いくら仕事があっても立ち行かなくなる。人を集めて育てられる企業でなければ、生き残れない」。社員一人ひとりと丁寧に向き合いながら課題を解決してきた結果、技術や対応力が磨かれ、各現場を任せられる人材が着実に育っていったという。

工場内での鋳造の様子

社員の思いを、事業のかたちに

2014年、キャステムでは全社員が事業発展に向けたアイデアを提案する「夢構想発表会」を実施。社員投票によって選ばれた自社商品開発事業、農業事業、医療機器事業の3つが、新たな事業として動き出した。それぞれの推進役を担っているのは、提案した本人たちだ。もともと代表の戸田さん自身にも「おもちゃの企画開発に携わりたい」という思いがあったことから、趣向を凝らした自社商品を手がけるプロジェクトは積極的に後押しされ、宮古島や神石高原町での農業事業などとあわせて、現在に至るまで継続されている。

なかでも自社商品開発は、当初こそ苦戦を強いられたものの、地道に取り組み続けた結果、3年ほどで利益を生み出すまでに成長。リスクヘッジという側面だけでなく、製造過程そのものが「新たな技術を試す場」としても活用されており、研究開発の一環としての意義も大きい。

こうした技術と創造力の結晶ともいえるユニークな商品群は、キャステムの公式オンラインストア「IRON FACTORY(アイアンファクトリー)」で展開中。人気コンテンツとのコラボレーショングッズなども含め、アイデアと遊び心にあふれた製品が多数ラインナップされている。

ユニークな商品が多数ラインナップされている

若者たちの心をつかむ社風と働きやすさ

キャステムが示してきた柔軟で挑戦的なものづくりの姿勢は、就活生の間でも高い評価を集めている。採用枠10名に対して800名もの応募が集まった年もあり、関心の高さがうかがえる。志望理由はさまざまだが、なかにはオリジナル製品の開発に魅力を感じて応募する学生もいるという。

組織側も、優れた人材が自由闊達に能力を発揮できるような環境整備に注力している。福利厚生の充実もその一環だ。各種手当や年間休日の拡充はもちろん、リーズナブルな価格で利用できる社員食堂や、子どもを預けられる託児施設の設置など、社員目線に立った制度を次々と導入。これらの取り組みは、バブル期に全く人が集まらなかったという反省をふまえて始まったものであり、利益の一部を「働きがいのある会社づくり」へ投資する方針によって、約20年かけてようやく成果を結びつつある。

また、キャステムは社内だけでなく、地域に向けても独創的な取り組みを展開している。たとえば、地域の子どもたちが昔ながらの「遊びの技」を競い合う大会として誕生した「遊びの祭典 WAZA One GP」では、竹とんぼや紙飛行機など、シンプルながらも創意工夫を凝らした遊びを通じて競い合うことができる。こうした体験は、将来を担う子どもたちに健全な競争心やものづくりへの関心を育み、活気あふれる人材の育成にもつながっている。そしてこの活動は、キャステムが大切にする「遊び心あるものづくり」の文化を地域社会に広げるとともに、次なる挑戦の芽を育んでいる。

1日1メニューを提供する社員食堂は、ほとんどの社員が利用している

これからも続く、未来を見据えた挑戦

鋳造業界が全体として縮小傾向にあるなかで、キャステムは独自の強みを築きながら成長を遂げてきた。今後の注力分野の一つが、3Dプリント技術を活用した「デジタルキャスト」だ。これは金型を使わずに鋳造を可能にする技術で、コスト削減やスピードアップ、設計自由度の向上など、鋳造の可能性を広げるものとして期待されている。また、地域の鋳物屋とも技術連携を図りながら、産業全体の底上げにも貢献していきたいという。

同時に、ウェルネス分野への進出も視野に入れている。健康寿命の延伸を見据えた製品やサービスの開発に取り組みつつ、農業事業の拡大にも意欲的だ。宮古島の「パニパニファーム」や神石高原町の「神石15(イチゴ)ファーム」では、すでに製造業の視点を取り入れたデータ活用や品質管理のノウハウを生かしながら、新たな農業のあり方を実践している。これは単なる多角化ではなく、企業として地域に新しい雇用と産業を生み出す試みでもある。

加えて、家屋の改築をせずに耐震性能を高めるための補強金具の研究にも着手。一見すると脈絡のない取り組みにも見えるが、戸田さんの根底には「人々の暮らしをよりよくする仕事をしたい」という一貫した思いがある。

経営者として大局的な視点を持ち続けることで、社員からは多様なアイデアが生まれ、事業化のための動きも加速する。「キャステムという会社に、何かものづくりの中核となるようなエネルギーを持たせていきたいですね」。そう語る戸田さんの視線は、常に先を見据えている。

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