尾道市/広島

粉末清涼飲料の挑戦
冷やしても、温めても
この一杯が、広島を物語る

尾道市/広島

今村 誠男_織田製菓

2025.11.05

広島県南東部に位置する尾道市は、瀬戸内海に浮かぶ島々、歴史と文化が息づく市街地、そして里山の風景が広がる北部エリアと、多彩な魅力を持つ地域。観光地としても人気を集めるこの地では、1960年ごろから「しょうが湯」や「くず湯」などの粉末清涼飲料の市場が発展してきました。その成長を黎明期から支えてきたのが、有限会社 織田製菓です。昔ながらの味を守りながら、広島の食材を生かしたレモネードなどの新たな商品も展開し、地域の魅力発信にも力を入れています。

織田製菓の本社・工場を訪れ、代表取締役の今村誠男(しげお)さんに、同社のこれまでの歩みや商品づくりへの思い、今後の展望についてお話を伺いました。

思いを語る、代表の今村さん

米菓から粉末清涼飲料へ

織田製菓の創業は1948年。今村さんの祖父・織田實さんが尾道市で立ち上げた。創業当初は、米菓の「あられ」や「おかき」などを手がけていたが、1960年に有限会社として組織を整え、粉末清涼飲料の製造・販売へと事業を転換した。転機となったのは、「粉末あめゆ」の製造への参入だった。粉末あめゆとは、砂糖や麦芽飴に生姜の汁とでんぷんを加え、粉末状に乾燥させたもの。お湯に溶かして飲むほか、冷やして「冷やしあめ」としても親しまれてきた。

当時、新潟や関西方面から流入してきた米菓との価格競争が激化したことで、あられやおかきなどの製造から撤退を余儀なくされた。代替事業を模索するなかで、粉末あめゆに活路を見出すこととなった。その背景には、先行して販売されていた粉末あめゆが好調な売れ行きを見せていたことがあった。また、粉末あめゆに必要な砂糖や麦芽飴、でんぷんなどは、もともと菓子づくりに使われていた原料であり、既存の仕入れルートを生かしやすかった点も、事業転換を後押しした。

こうして尾道市では、複数の菓子メーカーが、次第に粉末あめゆの製造に参入し、各社が独自の製法を競い合う時代へ。やがて、しょうが湯やくず湯など、さまざまな粉末清涼飲料が派生し、尾道独自の市場が形成されていった。織田製菓もその一社として、今日まで粉末清涼飲料の製造を続けている。現在では、15種類を超える自社商品を展開するほか、他社ブランド向けの製造にも対応し、地域に根差したメーカーとしての役割を果たしている。

長年多くの方に親しまれている、「あま酒」「しょうが湯」「抹茶くず湯」

守る味、広がる可能性

織田製菓では、需要の変化にともない、現在では粉末あめゆの製造を終了したが、しょうが湯、抹茶くずゆ、あま酒などの定番商品は今も販売を継続している。

さらに、2017年3月からは「尾道レモネード」シリーズを展開。「しょうが湯は甘めの味つけで年配層に人気だが、若年層には風邪のときなど限定的な使われ方が多い。もっと日常的に飲んでもらえる商品を」との思いから、甘さ控えめで酸味を効かせたレモネードを開発した。使用するのは、国産レモンの一大産地・尾道市瀬戸田町(生口島)のレモン。粗挽きにした果皮と果肉が浮遊・沈殿し、レモンの風味を存分に楽しめる商品となっている。スタンダードタイプに加え、尾道市向島産の生姜を加えた「尾道産生姜入」、呉市蒲刈町でつくられた藻塩を使用した「海人(あまびと)の藻塩入」の3タイプを展開。全国的にも人気の観光地「尾道」の名を冠した商品として、好評を集めているという。

また、バイヤーの声をきっかけに誕生したのが「広島の恵み りんごレモネード」シリーズ。「広島物産展などで販売する商品は、瀬戸内の柑橘類を使用したものが多く、黄色のパッケージになりがち。売り場が黄色一色になってしまう」という声を受け、山間部・庄原市高野町のりんごに着目。瀬戸田レモンと組み合わせた、甘酸っぱく爽やかな商品を生み出した。パッケージにはりんごのイラストをあしらい、赤い差し色を加えることで、売り場でも目をひくデザインに仕上げている。スタンダードタイプに加え、スパイシーな香りが効いた「シナモン」も展開。食品展示会などでは、「広島でりんごが採れるの?」と驚かれることも多く、まだ知られていない地域の魅力を伝える商品として期待が高まっている。

今村さんは「しょうが湯などの昔ながらの味わいは大切にしながら、新しい商品で差別化を図ることが必要」と話す。伝統の味を守る一方で、時代や消費者の嗜好に合わせた商品づくりに取り組むことは、企業としての成長にもつながるという。織田製菓は、懐かしさを宿した味と、新たな広島を発見できる味の両方を届けるべく、これからも挑戦を続けていく。

人気商品の「広島の恵み りんごレモネード」シリーズと「尾道レモネード」シリーズ

豊かなこの地で、次の一杯も

織田製菓が長年にわたり選ばれ続けている背景には、多彩な商品展開に加え、徹底した品質管理の姿勢もある。「安全・安心な商品を届けるのはメーカーとしての基本。そこはしっかりやっています」と今村さん。原料の仕入れから製造、出荷までを一貫して自社でおこない、すべての工程の記録を保管。製造履歴を追跡できる体制を整えている。

こうした取り組みが評価され、現在、織田製菓の商品は広島県や岡山県のスーパーを中心に販売。また、一部のスーパーや製薬会社などのプライベートブランド商品も手がけている。2021年ごろには自社オンラインストアも開設し、一般消費者への直販も開始した。

今後も織田製菓は、粉末清涼飲料という分野で、昔ながらの定番商品を守りながら、多彩な新商品を展開していく方針だ。今村さんは、既存商品に和風素材を取り入れ、さらに磨きをかけた新たな展開を構想している。また、尾道市をはじめとする広島県産の食材にこだわった商品開発にも意欲を見せている。地元食材の安定調達には課題もあるが、尾道や広島の魅力を伝える新たな食材を探し続けているという。

「最近は、消費者の食に対する意識が高まり、国産かどうかだけでなく、国産のなかでもどの地域のものかという点に価値を感じる人が増えています。瀬戸内海と里山の豊かな恵みがある広島には、まだまだ大きな可能性があります」と今村さんは力強く語る。

ふとした瞬間に飲みたくなる、やさしさや個性が光る一杯。その背景には、広島の風土と、今村さんの真摯なものづくりへの姿勢がある。広島の豊かな食材を生かした新しい商品が、誰かにとっての「懐かしい味」や「思い出の味」になる——そんな未来をめざして、織田製菓はこれからも歩み続ける。

OTHER STORIES

その他の物語

もっと見る

人、まち、社会の
つながりを進化させ、
心を動かす。
未来を動かす。