美祢市/山口

扉を開けば広がる香りと景色
選ぶたび心がはずむパンの世界
美祢で出会う手づくりの温度

美祢市/山口

内藤 加奈_プチラボベーカリー

2026.01.07

美祢ICから車で約15分。現在は鉄道が運行しておらず、バス高速輸送システムが利用されているJR美祢駅のほど近く、昔ながらの街並みに溶け込む築100年以上の木造建築で、「プチラボベーカリー(petit lab Bakery)」は営業しています。

1階にはハード系からソフト系まで、無添加にこだわった約100種類のパンがずらりと並び、店内に一歩足を踏み入れると、まるでパンのテーマパークに迷い込んだかのような高揚感に包まれます。奥では、オーナーシェフの内藤加奈さんをはじめ、スタッフの方々が次々とパンを焼き上げ、活気に満ちた空気が漂っています。

さらに、2階は約30席のテーブル席と和室を備えたカフェスペースで、ランチタイムにはパンと野菜たっぷりの惣菜を組み合わせたデリプレートを堪能できます。

県内外から多くの人が訪れ、平日営業にも関わらず行列ができるほどの人気を誇る同ベーカリー。その背景には、素材や製法へのこだわり、そしてオーナーシェフ・内藤さんの「手づくりのあたたかさを伝えたい」という思いがあります。内藤さんに、創業秘話やパンづくりにかける思い、そして今後の展望についてお話を伺いました。

2階のカフェスペースで語る、代表の内藤さん

笑顔から始まったパンづくり

内藤さんがベーカリーを始めようと思ったのは、2009年ごろ。当時3歳だった長男のために、人生で初めてパンをつくったことがきっかけだった。出来栄えは良くはなかったが、長男は大喜び。満面の笑顔で頬張る姿を見た瞬間、「もっと多くの人に、パンを通じて手づくりのあたたかさを届けたい」という思いが芽生え、ベーカリーを開きたいという気持ちが膨らんでいった。

そこから図書館に通い、シェフの本などを参考にしながら、独学でパンづくりを学んだ内藤さん。試行錯誤を重ねるなか、子どもの小学校入学を機に、2013年に夫の地元である美祢市へ移住することになった。それをきっかけに自宅を改装して工房をつくり、パンの製造・販売をスタートする。

自宅での販売はすぐに評判となり、徹夜で焼いても追いつかないほどの人気に。作っても作っても足りない状況が続く中で、新しい拠点を探していたところ、大嶺町で築100年近い木造建築と出会う。内見を重ねるうちに、「ここなら、パンを通じて人が集まる場所がつくれる」と確信したという。

家族と力を合わせてリノベーションに取りかかり、その建物を現在の店舗へと整えていった。こうしてプチラボベーカリーが本格的にスタート。パンの製造・販売に加え、半年後にはカフェスペースも設け、ハード系のパンと合わせて楽しめるランチメニューの提供も始めた。

やさしさとこだわりを込めて

現在、プチラボベーカリーでは、おかず系からおやつ系まで、1日に約100種類のパンを製造・販売している。レシピは全て内藤さんが考案。小麦や具材など素材選びにもこだわり、無添加で手づくりのあたたかさを届けている。

その原点には、幼少期から青年期まで養護施設で過ごした経験がある。施設では、毎日手づくりの食事が提供されていた。中でも印象に残っているのが、卵サンドの時間だ。当時はトースターが1台しかなく、みんなが自分の食パンを焼いてもらうために並んで待っていたという。その順番を待つ時間も含めて、鮮明な記憶として残っている。ただ、そんな日々の中で「なんで私はここにいるんだろう」と感じることも少なくなかった。

複雑な気持ちを抱えながら高校生になり、初めてコンビニのサンドイッチを食べたとき、衝撃を受けた。「漂白剤のような臭いがして、美味しく感じられませんでした。施設で食べていた卵サンドの味を思い出し、涙がポロポロ止まらなくなってしまいました」と振り返る。自分のために食事をつくってくれる人がいること、その食事が自分の土台をつくっていることに気づいた瞬間だった。同時に、市販の食品には添加物が多く含まれている現実も知った。そこから「食べることを大切にして生きていこう」と決意。その思いが、今のプチラボベーカリーにも息づく手づくり、厳選素材、無添加へのこだわりにつながっている。

「無添加の美味しいパンをつくるのはもちろんですが、そのパンを囲んで家族が笑顔になる。そんな時間を届けたいと思っています」と内藤さんは穏やかに語る。

手づくりのパンと惣菜を楽しめる人気のランチプレート

仕事も家庭も大切にしたいから

創業当時から現在まで、プチラボベーカリーには県内外から多くの人が訪れている。人気の理由について、「自分で言うのもなんですが、美味しいんだと思います。素材や製法にこだわっているのはもちろん、思いを込めてつくっていることが大きいのかな。食べるものにはつくり手の心が宿りますから」と内藤さんは話す。実際に、お客様からは「食べると元気が出る」「ここでしか味わえない味」といった声が寄せられているという。

こうした嬉しい声を励みに、順調に歩みを進めてきた一方で、内藤さんは子育てとの両立に悩んだ時期もあった。幼少期に寂しい思いをした経験から、子どものそばで成長を見守りたいと考えていたが、忙しさの中で思うようにできない日々。ある日、子どもが「野球の試合を見にきてほしい」と言い出せない姿を見て、このままでは後悔すると感じた。

そこで営業スタイルを見直し、オープン時間を11時に設定。定休日もそれまでは日曜だけだったが、土曜も加えることにした。結果、子どもとの時間が増え、心身に余裕ができたことで、より美味しいパンづくりにもつながった。自分勝手な営業スタイルだという声もあるが、仕事と家庭の両方でより良いパフォーマンスを発揮するために必要な選択だと考えている。こうした働き方が、これからのベーカリー業界で当たり前になることを願っているという。

平日でも多くのお客様が足を運び、店先には自然と行列が生まれる

毎日をそっと支えるベーカリーへ

美祢の食材を使ったパンづくりには、これまでも取り組んできたが、近ごろは生産者との出会いに恵まれる機会も増えている。丁寧に作物と向き合う人たちの思いに触れ、素晴らしい食材に出会うたびに、自然と新しいパンのレシピが思い浮かぶという。こうしたつながりを大切にしながら、これまで以上に力を入れていきたい考えだ。

一方で、ベーカリーの外にも視野を広げ、忙しい母親を応援できる取り組みを模索している。無添加のパスタソースやドレッシングなど、手軽に使える調味料をいつか形にできたらという思いがある。仕事や子育てに追われる日々の中でも、安心して食卓に並べられる一品があるだけで、心に余裕が生まれる。そんな“お助けアイテム”を届けたいという気持ちを抱いている。

「生きていれば、いろいろなことがあります。お母さんも、生産者さんも、きっと大変なことや苦しいことがあるはずですが、それでも前を向いている。そんな頑張っている人たちの力になれるベーカリーをめざしたいんです」。その言葉には、食を通じて人を支えたいという強い願いが込められている。パンとともに、心を満たす時間を届ける。その思いを胸に、挑戦は続いていく。

プチラボベーカリー

〒759-2212 山口県美祢市大嶺町東分3405-3 地図を見る

TEL/0837-52-9236
店舗営業時間/11:00~16:00
カフェオーダー時間/11:00〜14:00
定休日/土・日曜 ※インスタグラムで要確認

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