目指すのは「地産都消」
岩国市美和町の特産品「がんね栗」の
6次産業化で地域に活力を
目指すのは「地産都消」
岩国市美和町の特産品「がんね栗」の
6次産業化で地域に活力を
岩国市/山口
2024.10.02
新岩国駅から車で30分ほど。県道2号線を北上した岩国市美和町の一画に「がんね栗の里」の本社があります。併設の直売所では美和町の特産品「がんね栗」を使った和栗のスイーツを販売。ショールームも備えており、がんね栗の魅力をさまざまな形で発信しています。
主要箇所に設置された看板を頼りに到着すると、代表取締役を務める下森祺充さんが出迎えてくれました。80歳を目前に控えながら日本各地を飛び回り、がんね栗を軸にアクションを起こし続けています。栽培・加工・販売の全工程でがんね栗と向き合う下森さん。根底にある思いとがんね栗の里の歩みについて詳しく伺いました。
本社事務所棟と情報発信施設「GANNEGURI Lab.」
関西で暮らしていた下森さんご夫妻が、広島県隣接の山間部に位置する奥様の郷里となる美和町へ戻ったのは2000(平成12)年のこと。その後、美和町の特産品であるがんね栗を友人らに送ったところ、大変喜ばれたそうだ。「こんなに大きくて立派な栗をありがとう」という声。関東方面ではもっと小ぶりなものが高値で販売されていることも知った。
美和町坂上地区の大字岸根(がんね)に逃れた平家の落ち武者が在来種の栗に接木したと伝わるがんね栗。がんね栗を祖先とする品種が数多く存在することから「和栗の元祖」ともいわれている。果実は30g以上と和栗で最大級の大きさを誇りながら決して大味ではなく甘みも強い。農事組合法人を立ち上げて6次産業に携わっていた下森さんは、改めて郷里の宝に着目するようになった。
とはいえがんね栗を扱うのは容易なことではない。栗は収穫時期ごとに早生(わせ)・中生(なかて)・晩生(おくて)の3種類に分かれるが、晩生のがんね栗は需要が落ち着く10月中旬頃まで販売できない。山間にある美和町の傾斜地で背の高い木を剪定するのも手間が掛かる。そもそも生の栗を出荷するだけでは採算が取れない。こうした事情から地元でも生産者が減少していたがんね栗だが「それならばこの原産地で自分が動き出そう」と決意した下森さんは行動に移っていった。
美和町の道沿いには栗畑が点在している
2010(平成22)年にはがんね栗の現状を憂慮した有志5名で「がんね栗の里を復活させる会」を設立。企業組合を経て現在の組織が形作られていった。販売期間が長くなるようにと収穫したがんね栗は加工することに。6次産業化を進めれば雇用を創出できるとも考えた。
最初に手掛けたのはがんね栗のペーストだ。がんね栗自慢の味や香りが損なわれないように検討を重ねて作り上げた。しかし、冷凍されたペーストを気軽に口へ運ぶのは難しい。試行錯誤の末に誕生したのががんね栗の里の看板商品「がんね栗衛門」という。
がんね栗の美味しさを存分に堪能できるがんね栗衛門。日本国内のみならず海外からの問い合わせも多い栗きんとんだ。その他にもがんね栗を贅沢に刻んでふんわり焼いた生地で巻き上げる「がんね栗ロール」、がんね栗ペーストを練り込み栗の風味をしっかりと感じられるように仕上げた「アイスミルク(がんね栗)」など、栗生産者ならではの美味しさにこだわりぬいたスイーツの数々を提案。現在がんね栗の里の商品は、本社併設の直売所&ショールーム「GANNEGURI Lab.」や百貨店・道の駅などのほか、公式オンラインショップやDWモールでも買い求めることができる。
がんね栗の里の看板商品「がんね栗衛門」
がんね栗の強い甘みとなめらかな食感が際立つプレミアムスイーツの数々。丁寧に仕上げられたその味は濃厚で「栗より栗」と好評を博して次第に人気も高まっていった。JR西日本が運行する豪華寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」にて提供されるなど、特産品としての認知度も上がってきている。一方で商品の需要にがんね栗の生産が追い付かないという現状があり、欠品対応に苦慮しているという。
喫緊で取り組むべきはがんね栗の生産基盤強化と語る下森さん。商品への反響についても素材の良さあればこそと繰り返し、倍の生産量が欲しいと前を見据える。そのためには農業の担い手が減るなかで後継者を育てて栽培面積を増やすことが肝要だ。加工まで一貫して行うとなると技術を伝えるのも容易ではないが「このままでは原産地からがんね栗がなくなってしまう」と危機感を強めており、各所と連携を図りながらがんね栗存続のために注力している。
希少ながんね栗を大切に扱うことも忘れない。空き地の造成や植樹に汗を流しながら収穫した栗を丸ごと使えるような商品を考案する。作り上げた商品を廃棄するようなことがないように受注生産の形態をとるなど気を配る。生産基盤を固めるとともに商品価値を高めることで、がんね栗に携わりたいという人が増えることも期待しているそうだ。
下森さんは郷里に戻って以降、労を惜しむことなくがんね栗と向き合い続けてきた。当初は周囲の協力が得られないこともあったが、まずは自分の思いだけを頼みに行動したと振り返る。やがて「本気でやっているな」と理解してくれる人が増えていったのだとか。今も判断に迷えば同業者の人々に相談を持ち掛けるなどして必要な情報を集めているという。
「地産都消」の考えのもと東京や大阪をはじめとする日本各地に足を延ばしてがんね栗の魅力をPRすることにも余念がない。がんね栗を知らない人もひとたび商品を口に運べば「一口で素材の良さが感じられる」「山口にこのような栗があったとは」と驚くそうだ。より多くの人たちの目に留まるようにとパッケージやキャッチコピーにも趣向を凝らす。人口の多い都市部で認知されることが地元に恩恵をもたらすと考えている。
同時に店頭限定品を賞味しながらくつろげる「Shop&Cafe がんね栗の里」を本社から車で10分ほどの場所にオープンするなど、美和町においても新たな試みを続けている。展示室を備えており各種イベントも実施できる「GANNEGURI Lab.」の設置も相まって、下森さんの取り組みは更なる広がりを見せそうだ。直近では地域のもう一つの特産品である米を使った「美和りぞちーの」なる新商品や、米と栗を混ぜ合わせた洋菓子的なスイーツの開発にも注力しているとのこと。がんね栗から派生させて地元全体を盛り立てたいと意気込む。
がんね栗への思いを語りながら「いろいろなことを一から考えるのが好きなんです」と笑顔を見せてくれた下森さん。何か引っ掛かりがあればすぐに深掘りしてアイデアを練り、それを形にしたくなるそうだ。思い立ったらすぐ行動。そんな下森さんが示してくれるがんね栗の可能性とはどのようなものなのか。楽しみに注目したい。
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