セラミックから食品へ
変化を恐れず、未来を描く
地域とともに、次の一歩へ
セラミックから食品へ
変化を恐れず、未来を描く
地域とともに、次の一歩へ
美祢市/山口
2026.02.05
山口県西部、日本最大級のカルスト台地「秋吉台」に位置する美祢市。この地で1983年より、セラミック基板をはじめとする電気電子部品の製造を請け負うのが、株式会社美東電子です。現在は、電気電子部品の製造に加え、自社ブランド「真名ファーム」で、菌床椎茸「まなっこ」の生産にも取り組んでいます。さらに、食品加工にも力を入れ、「乾燥椎茸」や、地元産のたけのこを水煮にした「美祢っこ」、たけのこを鶏がらスープで味付けした「美祢っこ 味付けメンマ」などを展開しています。
電気電子部品の製造を担う同社が、なぜ異分野である菌床椎茸の生産や食品加工に挑戦したのか。その背景と思い、そして今後の展望について、代表取締役社長・前田健さんにお話を伺いました。
思いを語る、代表の前田さん
美東電子は1983年、前田さんの祖父により創業された。以来、電気電子部品の製造などを請け負ってきたが、2014年、新たな挑戦として自社ブランド「真名ファーム」を立ち上げ、菌床椎茸の栽培・販売事業を開始した。
背景には、自動車業界の変化がある。美東電子ではエンジンなどの熱で消耗しやすい部分に使われる、耐熱性の高いセラミック基板を製造してきた。しかし、モーターを動力源とする電気自動車では熱の発生が少なく、こうした基板の需要はEV化の進展に伴い減少しつつある。今後さらにEV化が加速すると予想される中、企業としての売上を維持し、従業員の生活を守るため、事業の多角化が不可欠だと考えた。
そんな折、美祢市の紹介で出会ったのが、個人で菌床椎茸を生産する人だった。これを新たな事業にできないかと考え、栽培方法を学び、2014年に工場の片隅で小規模栽培を開始。2018年には専用工場を新設し、本格的な生産に乗り出した。
現在、真名ファームでは、菌床椎茸を「まなっこ」ブランドとして展開。椎茸好きにおすすめの香り豊かで肉厚な品種と、誰でも食べやすい香り控えめでエリンギのような食感を持つ品種の2種類がある。年間約200トンを生産し、山口県内のスーパーや大型ショッピングセンターを中心に出荷。県内シェア約7割を誇るまでに成長している。
真名ファームが展開する菌床椎茸ときくらげの商品
菌床椎茸の栽培・販売に続き、2023年からは食品加工事業にも乗り出した。きっかけは、「まなっこの美味しさを全国に届けたい」という思いだ。生椎茸は鮮度の問題で出荷範囲が限られるため、日持ちさせるための加工品づくりを検討していた。その過程で、美祢市が第三セクターとして運営していた「たけのこの水煮加工施設」を引き継いでほしいという話が持ち上がり、その受け継ぎを決意。たけのこの水煮加工事業を引き継ぐとともに、施設を活用して椎茸の加工にも取り組み始めた。
たけのこの水煮は、譲渡元が展開していた商品名「美祢っこ」を継承。原料であるたけのこの受け入れ量をそれまでの3トンから32トンへ大幅に増加し、安定した供給体制を整えた。一般的なたけのこの水煮には、防腐のためにPH調整剤が加えられているが、美祢っこではPH調整剤を使わず、独自の製法で鮮度を保っている。
添加物を加えないことで、たけのこの自然な香りと食感を楽しめる仕上がりになっている。さらに、美祢という土地柄も美味しさの理由だという。「美祢が位置する秋吉台は石灰岩のカルスト台地で、地下水や土壌にカルシウムなどのミネラルが豊富に含まれています。この恵まれた環境で育つからこその味わいがあります」と前田さんは話す。
形状のバリエーションも豊富で、穂先やスライスは煮物、細切りはチンジャオロースー、みじん切りはハンバーグや麻婆豆腐、パンなど、さまざまな食品に混ぜて活用できる。特にみじん切りは珍しく、今後の需要拡大が期待されている。
さまざまなバリエーションがある、「美祢っこ」シリーズ
こうした加工品の展開は、さらに新しい商品開発へと広がっている。その一つが、たけのこの根本部分を活用した「美祢っこ 味付けメンマ」だ。水煮では使いにくい根本部分を、山口市の秋川牧園から取り寄せた鶏がらスープで味付けし、レトルトに加工している。コリコリとした歯ごたえと濃いめの味付けが特徴で、ラーメンのトッピングはもちろん、刻んでチャーハンやご飯に混ぜたり、そのままおつまみとして食べたりと、幅広い楽しみ方ができる。
現在、加工は長門市にある6次産業化支援施設「ながとラボ」のレトルト機を利用しておこなっているが、今後は自社にレトルト機を導入する構想がある。これにより、自社商品の加工だけでなく、レトルト機を持たない地域の事業者にも開放することで、食品加工の拠点として地域の産業を支える役割を果たしたい考えだ。
さらに、お土産品の開発にも力を入れたいという。美祢には秋芳洞や弁天池など豊かな観光資源があるが、宿泊施設の少なさや通過型観光の多さから、地域経済への還元が十分ではないという課題がある。
そこで前田さんは、「訪れた人が美祢の魅力をお土産という形で持ち帰り、次の来訪につながる循環を生み出したい」と語る。お土産は、観光客の消費を地域に還元するための重要な手段だ。企業が主体となってこうした取り組みを進めることは、地域の活性化と自社の成長の両方につながると考えている。
電気電子部品の製造から始まり、椎茸栽培、食品加工、そして地域活性化へと挑戦を続ける美東電子。その根底にあるのは、変化を恐れず、地域とともに成長しようとする強い意志だ。これからも、その歩みは地域に寄り添い、新しい可能性を広げていくだろう。
「美祢っこ」には、竹害を地域の財産へと変えたい願いが込められる
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