下関市/山口

残糸から藍染、そして和紙へ
素材が語る、デザインの原点
未来を織りなす、服のかたち

下関市/山口

浜井 弘治_TIGER BAMBOO JEANS

2025.11.12

日本の文化や知恵に目を向けながら、時代のニーズを捉えた新たな解釈により、未来へつながるファッションを生み出すブランド「TIGER BAMBOO JEANS(タイガーバンブージーンズ)」。生地を作る過程で排出される「残糸(ざんし)」を使ったアパレル製品や、和紙デニム、萩市の孟宗竹を炭化したボタンなどを展開しています。手がけるのは「株式会社うるとらはまいデザイン事務所」の代表取締役兼チーフデザイナーである浜井弘治さん。第61回装苑賞にも輝いた服飾デザイナーです。

今回訪れたのは新下関駅から徒歩6分ほどの場所にある文化複合施設「ねをはす HOTEL BOOK & CAFE」。その一角に店を構えるのが「select shop / Tiger Bamboo Jeans」です。店内には洗練されたデザインのアイテムがずらり。あわせて素材にまつわる物語に触れると、ブランドの魅力をより深く理解することができます。故郷である山口県を拠点に、独自の視点で情報発信を続ける浜井さんの思いとは。各アイテムの特長も含めて、詳しく伺いました。

「ねおはす」にある店舗で思いを語る、代表の浜井さん

独自の視点で商品を開発

東京の専門学校に進み、アパレルデザインを学んだ浜井さん。卒業後に入社したテキスタイルメーカーの工場において、余り糸である残糸の存在を知る。大量に発生して廃棄するにも費用がかさむことから、各工場で厄介者扱いされていたという残糸。独立して繊維産地へ足を運んだ折に、残糸の軍手を作る人物と出会ったことが、「残糸をファッションに活用したら面白いのではないか」と思い至るきっかけになった。

浜井さんが残糸のアパレル製品を展開し始めたのは1991年のこと。時代に先駆けてリサイクルの概念と表現のバランスを見極めながら、ファッション性の高いアイテムを打ち出していった。さまざまな残糸が織りなす思いもよらぬ配色。「大量生産なのに、不均一な一点物が自然と完成していく。そこに面白みを感じました」と浜井さんは言う。

日本に根付いた「もったいない精神」から生み出された残糸シリーズ。同期時に関心を寄せたのが「藍染」だ。藍染は3%の色素と97%の不純物からなる。その美しさはもちろん、「不純物にこそ意味がある」点に惹かれたという。ほどなくして、裁断した和紙をこよりのように撚って生地にする「和紙素材」の製作にも着手。江戸時代には雨合羽に使用されたという和紙の機能性に興味を抱いてのことだった。

浜井さんの着想から、残糸シリーズが生み出された

トレンドに左右されない思い

2006年にはデニムやワークウェアに重点に置くべく、活動の拠点を東京から移動。故郷でデニムの縫製産地でもある山口県の下関市に、うるとらはまいデザイン事務所を設立した。県内で竹林公害が発生していることを知ると、新たに竹のボタンを開発。見栄えだけではない、原材料に目を向けた取り組みを継続する。

「ファッショデザイナーですから、流行に関心はありました。だけど、深く考えを巡らせるうちに、もっと意味のあることがしたくなったんです。物事の本質を捉えたデザインの方が面白いんじゃないかって」と振り返る浜井さん。そのうえでひとつの軸になったコンセプトが「日本の知恵」だ。

日本の精神を反映した残糸の活用に、日本独自の紙である和紙。藍染の発酵や竹を炭化させて強度を増す技術は古くから伝わるものでありながら、化学と結び付いている。日本の知恵を探求すれば、もっとすごいことができるかもしれない。TIGER BAMBOO JEANSというブランドの根底には、こうした思いがあった。

地域の課題「竹林公害」に向き合った、竹ボタン

機能性を兼備した上質なアイテム

ブランド名である虎と竹も、日本の造形美を表したものとなっている。同時に、虎は絶滅の危機に瀕しており、竹は増えすぎが課題となっていることから、「エコ」の象徴として採用した。日本の知恵を探りながら、現代社会が抱える問題と向き合い、未来の技術に展開していく。TIGER BAMBOOというワードからも、浜井さんのぶれないまなざしが感じられる。

TIGER BAMBOO JEANSの各アイテムは、浜井さんの思いが込められたデザインであるとともに、機能性を兼備している点も特長だ。例えば残糸のソックスはコットン100%で蒸れにくく、締め付けもないため、年齢を問わず快適に履くことができる。和紙素材はコットンの3分の1の重量で10倍の吸水性を誇ることから、高温多湿な季節にもぴったり。竹を炭化したボタンの強度は、プラスチックの実に2倍という。

TIGER BAMBOO JEANSのアイテムは、「ねをはす」内のselect shopに加えて、公式オンラインストア「TIGER BAMBOO JEANS」でも買い求めることが可能。なお、現状は店舗を訪れて商品を手に取り、そのクオリティを実感して購入を決める方が多いという。パン屋のオープンキッチンをイメージした店内で、デザイナーの仕事を眺められるのもうれしい。

人気アイテムの一つ、残糸のソックス

見つめ続ける、人とデザインのこれから

現在も日本の知恵をコンセプトにした、さまざまな取り組みを続けている浜井さん。ミシンを使わない新しい洋裁と銘打った「Origami Sewing」もそのひとつだ。正方形の紙をハサミで切ることなく折り重ねて造形を作る折り紙のように、ミシンなしでバッグを仕上げていく。折り紙で完成するものは置物というイメージを抱きがちだが、見方を変えれば道具にもなり得るという発想が面白い。今後さらにOrigami Sewingを発展させていきたいと、全国各地でワークショップも開催している。

より将来的な展望でいえば、地方においてファッション業界の未来を担う人材を育てたいとの思いが強い。アパレルというと東京や大阪などの都市部からトレンド情報が発信されるため、容易なことではないが、志ある人たちとともにアクションを起こせればと願っている。すでに実施している有名ブランドとタッグを組んでの生産企画についても、引き続き注力したいとのこと。浜井さんならではのセンスと感性は、これからどのような未来を描いていくのだろうか。

select shop / Tiger Bamboo Jeans

〒751-0873 山口県下関市秋根西町2丁目7-2-2F(ねをはす2F) 
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TEL/083-255-3482
営業時間/10:00~17:00
店休日/不定休(Instagramにて告知)

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