一頭の命と向き合い
時間をかけて育て抜き
旅の目的地「梶岡牛」へ
一頭の命と向き合い
時間をかけて育て抜き
旅の目的地「梶岡牛」へ
美祢市/山口
2026.02.18
美祢駅より車で10分ほどの場所にある「梶岡牧場」。黒毛和牛の繁殖・肥育・提供を一手に担う、一気通貫経営をおこなっています。黒毛和牛の真なる美味しさを追求した自社ブランド牛「梶岡牛」は、脂のさらりとした喉越しのよさと赤身のしっかりとした濃い味わいが特徴。その滋味あふれる美味しさを求めて、梶岡牧場直営レストラン「FIRE HILL」を訪れる人が後を絶ちません。
有限会社梶岡牧場の代表者を務める梶岡秀吉さん。「食材である前に礼をもって命と向き合う」という考えのもと、日々実直に牛と向き合っています。その先に思い描く未来とは、どのようなものなのか。牧場の歩みや梶岡牛の魅力にも触れながら、詳しく伺いました。
FIRE HILL店内で思いを語る、代表の梶岡さん
1968年に創業した梶岡牧場。梶岡さんの祖父が始めた果樹園を前身とするが、経営基盤の安定化を図るとともに堆肥が必要であったことから、牛の肥育に着手したという。長らく、預かった牛を適齢期まで育てる「預託事業」を展開していたものの、主要な取引先であった牧場が倒産。その影響による大変な窮地を経て、2014年より自社牛の肥育を開始した。
祖父と父が牧場の礎を築く姿を、傍らで見つめて育った梶岡さん。先代たちから後を継ぐよう求められることはなかったが、大学では工学部食品科学科で食品加工の基礎を学び、卒業後に梶岡牧場の取締役に就任した。霜降りや体の大きさといった血統を重視する定石にとらわれることなく、あくまでも美味しさを追求した自社ブランド牛「梶岡牛」を世に送り出すなど、意欲的な取り組みを続けている。
共に梶岡牧場の運営を担う、西山さん(左)と梶岡さん
一般的に黒毛和牛は20数ヶ月で出荷されるが、梶岡牛は32ヶ月から最大40ヶ月という長期肥育を採用している。その間は牛にとって快適な環境を徹底的に整備。梶岡さん自ら開発に携わった一頭ごとの活動データを人工知能で解析するセンサーデバイス「ファームノートカラー」の導入により、わずかな体調の変化も見逃さない。与えるのは米ぬかや酒粕をベースにした自社製の発酵飼料。大学時代に得た知見を生かし、堆肥にもこだわる。なお、梶岡さんは人工授精と受精卵移植の免許も取得しているのだとか。生まれた命を最初から最後まで見届けたいという思いは、確かな技術とひとかたならぬ情熱によってかたちとなっていく。
現在、梶岡牧場では梶岡牛に加え、経産牛を長期間かけて再肥育した「マザービーフ」や、梶岡牛と同じメソッドで育てた「純血ブラウンスイス」を肥育。さらに、2022年より和牛のルーツにして幻の和牛といわれる「竹の谷蔓牛(たけのたにつるうし)」の繁殖にも取り組むようになった。どの牛も希少ながら肉本来の味を堪能できるため、腕利きの料理人たちがこぞって買い求めている様子。そうした特別な味わいを生産地にて楽しめる場所が、梶岡牧場直営レストランのFIRE HILLだ。
快適な環境を徹底している、梶岡牧場の牛舎
FIRE HILLがオープンしたのは1988年のこと。当初は預託元から買い取った牛の肉を提供していたが、自社産の肉を取り扱うようになり、「肉本来の味がして美味しい」との声がより高まったという。各種メニューをその価値に見合った価格で振る舞っているため、県内の相場からいえば一見割高にも思えるものの、特に都市部から来た人たちは「これだけの肉を、この価格帯で楽しめるとは」と驚くそう。オープン当初から親子三代にわたって訪れる方や、県外から足繁く通う常連客も見られ、メニュー表には完売の文字が並ぶほどの盛況ぶりだ。
店内を眺めると、その日提供されている牛の個体識別番号が掲示されていることに気付く。FIRE HILLを抱く自然豊かな山間の風景も相まって、肉の美味しさとともに、命を頂いているという実感が胸を打つ。「FIRE HILLは、私たちが梶岡牛に託した思いをダイレクトに伝えることができる舞台だと考えています」と語る梶岡さん。同じ一つの命をつなぐならば、手塩にかけた牛たちにとっても、より美味しい笑顔があふれる晴れの舞台になるようにとの思いを抱きつつ、今日も牧場に立つ。
完売の文字が並ぶ、FIRE HILLのメニュー表
梶岡牛の魅力に触れるきっかけになればとの考えから、各種加工品も取り揃えている。その中の一つである「梶岡牛 プレミアムハンバーグ」は、ハンバーグの概念が変わるほどのとろふわ食感を堪能できる逸品だ。使用するのは長期肥育によって成熟した梶岡牛のみ。複数の牛から出た端肉を混ぜてつくるハンバーグが多いなか、肉も脂も一頭に由来したものとなるよう仕上げた。そのため、個体識別番号の表示まで可能な血統書付きの商品として提供されており、同業他社からは驚きの声が上がっているという。そのほかにも、家庭で気軽に楽しめる「たたき」や「すき焼き」、「牛すき丼」などをラインナップ。梶岡さんが「雑な加工品はつくりません」と力を込める商品の数々を、ぜひ手に取りたい。
梶岡牧場が手掛ける肉と加工品は、「KAJIOKAGYU オンラインショップ」を通じても購入することが可能。最近はマルシェなどで販売するケースも多いが、いつもすぐに完売してしまうという。主に販売促進の役割を担って牧場を盛り立てる西山さん曰く、牛すき丼2食分に野菜や焼き豆腐を入れ、牛すき鍋として頂くのもおすすめとのこと。なお、どの商品も品薄状態が続いているため、気になるものがあれば早めに買い求めてほしい。
人気の各種加工品はオンラインショップから購入できる
梶岡牛にはそれぞれ4桁の数字が付番されている。これは生まれてから出荷されるまでの日数であり、梶岡さんがその牛とともに過ごした日々を表すものという。あわせて、自らしたためた文章や映像を公開することにより、一頭ごとの牛なりを伝えようと心を砕く。こうした対応を見るにつけても、現状供給が追い付いていないというのも納得だが、自分たちで責任を持って手売りできることを大切にしているそうだ。
一方で今後のビジョンについて伺うと、「最終的には梶岡牛を世界中の人たちに食べてもらいたいんです」という力強い言葉が返ってきた。決してスケール大きく事業展開したいという意味ではなく、海外の人たちが梶岡牛の美味しさに触れるきっかけをつくり、いずれは生産地を訪れてもらえるような流れを思い描いているのだという。「ワインを味わった方が海外のワイナリーへ足を運ぶように、梶岡牛を旅の目的になり得る肉にしたいと考えています」と前を向く梶岡さん。黒毛和牛の枠に収まらない、梶岡牛というジャンルを確立したいとも語ってくれた。実現に向けてはさまざまなリスクを伴うだろうが、「小さく尖って生きていく」と心に決めている。ちなみに、梶岡さんは秀吉という名前から、「侍カウボーイ」と呼ばれているのだとか。侍カウボーイの世界を見据えた挑戦は、これからも続いていく。

〒759-2221 山口県美祢市伊佐町河原789 地図を見る
TEL/0837-53-0500
営業時間/平日11:00~17:00
土・日曜 11:00~17:00、17:00~21:00は予約制
定休日/水・木曜(臨時休業有)
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