周南市/山口

山あいの農場から
育て、届ける養豚
食卓のもっと近くへ

周南市/山口

隅 明憲_鹿野ファーム

2026.10.14

山口県周南市最北部に位置する鹿野(かの)地区。清流・錦川の源流を抱くこの高原地帯の、人里離れた山あいに有限会社鹿野ファームの農場があります。

冷涼な気候と澄んだ空気、豊かな地下水に恵まれた環境のなかで、同社はハイポー豚の種豚生産から肉豚の育成、食肉加工、販売までを一貫して手がけています。自社で育てたハイポー豚は「鹿野高原豚」「鹿野あじわい豚」というブランド名で、山口県内を中心に多くの食卓へ届けられています。

消費者の顔が見える養豚をしたい。そんな思いを原動力に事業の幅を広げてきた同社。その歩みと鹿野高原豚や加工品の魅力について、代表取締役の隅明憲さんに伺いました。

事業を広げてきた代表の隅さん

新しい養豚への挑戦

鹿野ファームの創業は1982年。養鶏会社で働いていた隅さんの父が、同じ会社の仲間たちとともに独立して立ち上げた。

当時の養鶏業界では、生産性や収益を数字で管理する企業的な経営が進んでいた。一方、養豚業界はまだ家族経営が中心だった。そこで創業者たちは、養鶏で培ったノウハウや企業的な経営感覚を生かせば、後発でも十分に活路を見いだせると考えた。さらに当時の養豚には、「臭い・汚い・きつい」というイメージが根強く残っていた。だからこそ、若者が夢を持って働ける近代的な養豚を実現したい。そんな思いも創業の原動力になったという。

農場の開設にあたり、創業者たちは山口市周辺で土地を探し始めた。しかし、養豚に適した場所はなかなか見つからない。そんななか、知人の紹介でたどり着いたのが、現在の農場がある鹿野地区の山深い土地だった。かつては集落があり、農業が営まれていたが、離農が進み荒廃していたという。その土地を開拓し、一から養豚場を整備していった。

結果として、この土地は養豚に適した条件に恵まれていた。冷涼な気候と澄んだ空気、人の往来が少ない静かな環境に加え、周囲に畜産施設がないため伝染病のリスクも抑えられる。さらに錦川源流域の良質な地下水を飲み水に使うこともできた。

こうした恵まれた環境のもと、鹿野ファームの養豚は始まった。

冷涼な気候と豊かな自然に恵まれた、周南市鹿野地区の山あい

ハイポー豚との出会い

鹿野ファームの歴史を語るうえで欠かせないのが、ハイポー豚との出会いだ。ハイポー豚は養豚先進国のオランダで育種改良されたハイブリッド豚。当時の日本ではまだ珍しい品種だったが、生産性と肉質の高さが注目され、国内でも普及が進められようとしていた。

鹿野ファームはそのハイポー豚に着目し、早くから導入に取り組んだ。1984年にはハイポーGP農場の認定を受ける。GP農場とは、養豚農家へ供給する種豚や、その親となる原種豚を育てる農場のこと。中四国・九州エリアへ種豚を供給する拠点として、ハイポー豚の普及を支える役割を担うことになった。

当初はヨーロッパ向けの特徴が強かったハイポー豚だが、徐々に日本市場向けの改良が進められていく。ハムやソーセージなど加工用途が中心の欧州と違い、日本では精肉としての見た目や味が重視される。肉の色や脂の質、きめ細かさなど、日本人の嗜好に合わせた改良が重ねられ、現在では国内でも広く飼育される品種となっている。

また同社では、種豚の生産だけでなく肉豚の育成も手がけ、「鹿野高原豚」「鹿野あじわい豚」として販売している。麦と国産米を多く配合した飼料で育てられ、きめ細やかな肉質と甘みのある脂が特徴だ。

品質にこだわりながらも、日々の食卓で継続して楽しめる価格帯をめざしている点にも同社らしさが表れている。「国内の豚肉は、生産性を重視して安価に提供されるものと、品質にこだわった高価格帯のものに二極化しています。そのなかで、鹿野高原豚は品質を大切にしながら、日常的に手に取っていただける価格も追求しています」と隅さんは胸を張る。

きめ細やかな肉質と、甘みのある脂が特徴の鹿野高原豚

消費者とのつながりを求めて

養豚事業が軌道に乗るなか、鹿野ファームはあるもどかしさを抱えていた。それは、消費者の顔が見えないことだ。市場へ出荷すれば、それで終わり。消費者が美味しいと感じているのか、どのように評価されているのか、その声が届くことはほとんどなかった。

転機となったのは、1989年に始まったコープやまぐちとの産直事業だ。農場見学会などを通じて組合員と直接交流する機会が生まれ、「美味しい」という声が届くようになる。やがて、その評判は口コミで広がり、鹿野ファームの名前も少しずつ知られるようになっていった。

同じころ、先代がヨーロッパで味わったハムやソーセージの美味しさに感銘を受けたことをきっかけに、加工品づくりにも挑戦するようになる。地域の直売所の一角を借りて、ハムやソーセージを製造。鹿野町の農業祭で販売したところ、来場者から好評を得た。「お客様が目の前で美味しいと言ってくださった。その喜びは忘れられません。自分たちの進む道は間違っていないと確信しました」と隅さんは振り返る。

1994年にはハム工房を新設し、本格的な加工品づくりがスタートする。ハムやベーコン、ソーセージをつくる際には、増量剤による水増しをおこなわず、肉本来の持ち味を大切にしている。一般的な製法では、1kgの肉から1.5kgほどのハムに仕上がることもあるというが、鹿野ファームでは約750gに。その分、肉の繊維や旨みをしっかりと感じられ、素材そのものの味わいを楽しめる。

育てた豚に付加価値をつけ、自ら届ける。そんな取り組みを重ねた結果、現在は年間5万頭以上を出荷。そのうち約4万頭は、食肉処理を経た後に自社で買い戻し、精肉や加工品として販売している。消費者とのつながりを求めて始まった6次産業化への挑戦は、同社ならではの強みとなっている。

ハムやソーセージなどの加工品を製造する「ハイポーハム工房」

地域と支えあう循環の仕組み

鹿野ファームの事業は、養豚だけにとどまらない。1991年には黒毛和牛部門を開設し、地域農業と連携した取り組みも進めてきた。その一つが、「稲ワラ交換事業」だ。豚の排せつ物を堆肥化し、契約農家の田んぼへ散布する。その代わりに収穫後の稲ワラを回収し、黒毛和牛の飼料として活用している。農家にとっては土づくりに役立ち、鹿野ファームにとっては飼料確保につながる。互いの資源を循環させることで、支え合う関係が築かれてきた。

また2005年には、豚の排せつ物を活用した地下設置型のバイオガスプラントを県内で初めて稼働した。排せつ物を発酵させ、発生したガスを利用して発電をおこなう仕組みだ。農場で使用する電力の約30%を賄うほか、年間142トンのCO₂排出削減にもつながっているという。

養豚から生まれる資源を地域や農場のなかで有効活用する。こうした取り組みもまた、鹿野ファームの特徴の一つだ。

本当の意味での6次産業化へ

現在、鹿野高原豚は山口県内を中心に流通している。加工品はDISCOVERWESTmallや自社オンラインショップでも購入可能だ。

さらに2014年には、周南市の道の駅・ソレーネ周南に直営店を出店した。生産し、加工し、自らの手で販売する。背景にあったのは、「本当の意味での6次産業化を実現したい」という思いだ。生協やスーパーを通じて商品を届けるだけでなく、お客様と直接向き合い、その反応を聞ける場を持ちたい。そんな考えから、直営店の運営にも乗り出したという。

ソレーネ周南内では、精肉・加工品の販売店、どんぶり専門店「鹿野BISTRO丼」、ファストフード店「ビストロ鹿野農場」の3店舗を展開。ビストロ鹿野農場では、鹿野高原豚のももハムを豪快に挟んだ「はみでるハムサンド」や、黒毛和牛を使用した「鹿野高原ハンバーガー」などが提供されている。

今後は新たな直営店やレストランの展開など、さらなる挑戦も視野に入れているという。

種豚生産から肉豚の育成、食肉加工、販売まで、一貫した体制を築いてきた鹿野ファーム。その成長を支えてきたのは、より良い養豚を追求する姿勢と、消費者や地域の人々とつながりたいという思いだ。つくって終わりではなく、その先にいる人の顔が見える養豚をめざして。鹿野ファームの挑戦は、これからも続いていく。

ビストロ鹿野農場で味わえる「鹿野高原ハンバーガー」と「はみでるハムサンド」

道の駅 ソレーネ周南 ビストロ鹿野農場

〒745-1131 山口県周南市戸田2713 地図を見る

TEL/0834-83-3666
営業時間/10:00~16:00
※都合により変更の可能性あり。来店前に要確認。
店休日/不定休

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