萩市/山口

明治維新胎動の地で
「チョンマゲビール」を軸に
正統派クラフトビールを展開する

萩市/山口

河野 崇_山口萩ビール

2025.06.25

山口県北部に位置する萩市は、江戸時代に毛利家36万石の城下町として発展した歴史ある街です。吉田松陰や高杉晋作、伊藤博文といった明治維新の志士を輩出したことから、「明治維新胎動の地」とも呼ばれています。

そんな萩市に醸造所を構えているのが、山口萩ビール株式会社。同じく萩市に本社を置く株式会社岸田商会が、日本のクラフトビール黎明期にあたる1996(平成8)年に創業した老舗のマイクロブルワリー(小規模ビール醸造所)です。その主力商品は「チョンマゲビール」。「ラガービールが主流である日本のビール界を、萩から変えたい」という志のもとで開発されたクラフトビールで、明治維新で日本を変えた志士たちを輩出した、城下町・萩市にちなんで名付けられました。

発売以降、約30年もの長きにわたり、山口県を中心に多くの人々に親しまれてきた「チョンマゲビール」。その成功の理由は、どこにあるのでしょうか。萩市の本社と醸造所を訪ね、営業担当の松下正寿さん、ヘッドブルワーの河野崇さんに、山口萩ビールのこれまでの歩みや今後の展望と併せてお話を伺いました。

お話を伺った、河野さん(左)と松下さん(右)

酒税法改正を追い風に創業

山口萩ビールは、1996(平成8)年、株式会社岸田商会の子会社として創業した。きっかけは、創業者であり現社長の大中隆義さんが、当時勤務していた大手ビールメーカーの仕事で訪れたアメリカで、マイクロブルワリー(小規模ビール醸造所)の存在を知ったことにある。当時の日本では、ビールの製造免許を取得するには年間2,000KL以上の製造量が必要と酒税法で定められており、マイクロブルワリーの設立は事実上不可能だった。そのため、ビール市場は大手メーカーにより独占されていた。一方、アメリカでは1960年代にクラフトビールムーブメントが始まり、やがて個性豊かなマイクロブルワリーが各地に誕生。クラフトビールがごく当たり前の選択肢として並ぶアメリカの光景に触れた大中さんは、日本との違いに衝撃を受け、帰国する。

そんな折、1994(平成6)年に日本で酒税法が改正され、ビールの製造量要件が60KLまで大幅に引き下げられる。これを受け、大中さんは「自分の手で日本にもマイクロブルワリーを」と一念発起。生まれ故郷の萩市に山口萩ビールを設立し、アメリカから製造機器を輸入して、中国地方でもいち早くクラフトビールの開発に乗り出す。翌1997(平成9)年には「チョンマゲビール」の製造・販売に漕ぎつけ、以降約30年にわたり、基本的な製造方法を変えることなく、山口県を中心に多くの人々から愛され続けている。

山口萩ビールが醸造・販売している、4種類のチョンマゲビール

味・名前・価格で選ばれ続ける

現在、チョンマゲビールは「ペールエール」「アルト」「ウィート」「IPA」の4種類を展開している。いずれも、ビールの伝統的な製法である「上面発酵」により醸造されているのが特徴だ。また、「麦芽・ホップ・水・酵母のみを原料とした、正統派のビールであることも大きな特徴です」と河野さん。果物などの副原料を加えて「発泡酒」として醸造するのではなく、あくまで「ビール」として醸造することにこだわっているという。そのため、上面発酵ならではのフルーティーで豊かな香りがありながら、副原料が入っていない分、クリアで癖が少なく、ラガービールに馴染みのある日本人にとっても飲みやすい味わいに仕上がっている。さらに、製造工程であえてビール酵母を完全に取り除かないのも、このビールならではのこだわりのひとつ。酵母由来のまろやかな旨みと奥行きのある味わいが広がり、クラフトビールらしい自然な風合いが感じられる。素材を生かした味づくりで、日常の一杯にやさしい余韻を添えてくれる。

「こうした味わいはもちろん、『チョンマゲビール』という名前やリーズナブルな価格も、長く愛されてきた理由です」と松下さん。チョンマゲビールという名前は一般公募により寄せられた案の一つ。「萩で生まれ、日本を変えた明治維新の志士たちのように、萩から日本のビール界を変えるようなクラフトビールになってほしい」という思いが込められており、選考に携わった社員の満場一致で決定した。目を引くインパクトのある名前は、売上に大きく貢献しているという。また、クラフトビールとしては非常に手ごろな価格も愛されてきた理由の一つとなっている。大型タンクを使って一度に大量醸造することでコストを抑え、一般的なクラフトビールより100〜150円ほど安く提供しているという。

商品名と価格に惹かれて手に取り、味わいに魅了される-—。こうして、チョンマゲビールは、マイクロブルワリーが乱立する現代にあっても埋もれることなく、ファンを獲得し続けている。

これからも「ビール」で勝負

チョンマゲビールは、主に山口県内の旅館やホテル、飲食店などで提供されているほか、道の駅や土産物店などでも販売されている。今後もさらに販売先を広げ、「山口といえばチョンマゲビール」と言われるような、県を代表する存在を目指したいと松下さんは考えている。

また、醸造所ではこれまでの大型タンク5基に加え、2024(令和6)年の夏に小型タンクを2基導入。少量からの試作がしやすくなったことで、2種類の新たなビールの開発も進んでいる。1種類目は「ラオホ」というスタイルで、燻製した麦芽を使い、チョンマゲビールの醸造で培ってきたクリアな味わいにスモーキーなアクセントを加えた。2種類目は「ヘイジーIPA」を候補に挙げている。濁りと癖があるスタイルで、これまでのチョンマゲビールとは一線を画す仕上がりを想定している。

いずれの新作も、チョンマゲビールと同様に副原料を使わず、正統派のビールとして仕上げる予定。これまでの醸造経験を生かし、発泡酒ではなく、あくまでビールにこだわって展開していく考えだ。「これからもビールで勝負したいです。私の思い描く香りや味が飲んだ方に伝わるよう、材料の目利きや醸造の技術をさらに磨いていきたいと思います」と河野さんは力強く語る。

そんな河野さんだが、実は山口萩ビールに入社する前は、クラフトビールにそれほど関心があったわけではなかったという。転機となったのは、仕事で各地のビールイベントに足を運ぶうちに出会った、多彩なクラフトビールたち。麦芽・ホップ・水・酵母だけで、なぜこれほどまでに味が異なるのか。その奥深さに惹かれ、いつしか夢中になっていった。

知るほどに広がるクラフトビールの世界。河野さんのようにその魅力にハマる人も多いはず。まずは、飲みやすいチョンマゲビールから、その世界への第一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。購入は、親会社である岸田商会が運営する、岸田ポン酢のオンラインショップからも可能だ。

醸造の地に広がる、萩の海の青

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