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福山市/広島

菓子道に邁進する
御菓子所「勉強堂」
試行錯誤の歴史と、これからの挑戦

福山市/広島

門田 治己_有限会社 勉強堂

2024.03.12

福山駅から車で20分ほど。福山沼隈線(県道72号)を南下した道沿いの広島県福山市熊野町に、老舗の御菓子所「勉強堂」の本店があります。周辺は賑わいが感じられるような場所ではないですが、以前は鞆の浦に続く交通の要衝として賑わっていたそうです。

その当時から菓子店としてある勉強堂。今では主に備後地域の風土が育む素材を使用した和菓子を手掛け、備後地域に7店舗、広島駅構内に1店舗を運営する、広島県域でも代表的な和菓子屋です。

また現在もその成功に甘んずることなく、食を通じた地域の魅力発信など、さまざまな挑戦を続けているのも印象的な企業ですが、そこに至るまでには試行錯誤の日々があったといいます。

そんな勉強堂のこれまでの歩みとこれからについて、3代目代表取締役の門田治己さんにお聞きしました。

御菓子所 勉強堂 本店

時代の変化とともに歩んできた「勉強堂」

1929(昭和4)年に創業した勉強堂が、現在の和菓子専門店という形をとるようになったのは1985(昭和60)年のことだという。創業当時の勉強堂は、和菓子だけでなく日用雑貨なども取り扱う商店だった。しばらくすると創業者である祖父がパンの取り扱いを、その後2代目である父が洋菓子の取り扱いを始め、1965(昭和40)年ごろからは和菓子、パン、洋菓子を扱う総合的な菓子屋となった。

物流が発達していなかった当時、総合菓子屋は地域の人々に重宝されたという。しかし時代の移り変わりとともに物流が発達し、大手のパン屋や菓子屋の商品が手に入れやすくなると、勉強堂の商売は苦戦を強いられるようになった。もみじ饅頭や酒まんじゅう、一口ようかんなどを首都圏の物産展に持って行って売るなど、試行錯誤の日々が続いたという。そんな中で「勉強堂の中心にあるのはやはり和菓子」という考えに至り、1985(昭和60)年に和菓子専門店として再スタートを切ることになったのだ。さらに近年、本店に併設する形で「菓子工房」という製造工場が完成。先進的な設備の工場で、広島県域でも屈指の生産力を保有している。

時代に合わせて変化してきた勉強堂だが、勉強堂という屋号は創業時から変わらずそのままだという。「例えば華道や茶道など、日本には『道』というのがありますよね。ああいう道は一度勉強したら終わりというものではなく、勉強し続けて極めていくものです。私は菓子道も同じだと思っています」と門田さん。時代の流れに合わせて変化する努力を続けてきた勉強堂。そこで今、3代目の門田さんは菓子道を極めるべく努力し続けているのだ。

御菓子所 勉強堂 南蔵王店

「大人のたしなみアイテム」としての和菓子

和菓子専門店となった勉強堂が目指すのは、生活を彩り、ワンランク上に押し上げるようなお菓子を提供することだという。よその家に招かれた時や怪我をした人をお見舞いする時などに、手土産や見舞い品としてお菓子を持って行ったことがある人は多いだろう。勉強堂ではこうしたシーンで使える「大人のたしなみアイテム」を提供することに力を入れている。

祖父がパンを取り扱い始めたころ、勉強堂の近隣には他にも菓子屋があった。しかし今も残っているのは勉強堂だけだ。その背景には時代に合わせて変化してきたということ以外に、生活していく上で必要不可欠な、手土産や見舞い品として使えるお菓子を提供してきたということもあるのだろう。

一歩踏み込んだ菓子屋の形

仕入れたものを加工して商品にし、販売するのが一般的な菓子屋の形だ。しかし勉強堂ではもう一歩踏み込み、素材の生産から商品の加工・販売までを一気通貫で行う取り組みをしている。アンズはその代表的なものだ。もともと和菓子の素材としてアンズを購入していた農家が高齢になったため勉強堂で農園を引き継ぎ、スタッフが草取りから収穫まで行なっている。年度によっては福山産アンズの約80%を勉強堂のアンズ農園が生産しているというから驚きだ。農園から収穫されたアンズは、年間を通してお菓子作りに使えるよう「菓子工房」でピューレやシラップ漬けに素早く加工される。鮮度を保ったままの加工は、素材の生産から販売までを一気通貫で行っている、勉強堂だからこそできることだろう。

こうした取り組みの際に気をつけているのは、諦めずに続けることだと門田さんは言う。「やめてしまえばひょっとしたら果樹が伐採されるかもしれない。そうしたら里山の景観が変わってしまいます。私たちは社会的責任も負っているのだと感じながら取り組んでいます」と門田さん。菓子屋として一歩踏み込んだ形をつくり、社会的責任にまで目を向けているのだ。これも勉強堂の菓子道の極め方なのだろう。

自社農園で収穫されたアンズ

地域の魅力を全国に発信する商品を

勉強堂では今、地域の素材を使った商品を全国へ発信することに挑戦している。ものづくりの会社として、エリアを限定せず、欲しいと思うお客様のところに商品を届けたいそうだ。また商品を通じて地域の魅力を発信する一翼を担えればとも考えている。

発信する商品は和菓子に限定しないという。「和菓子屋はとどのつまり農産物加工業者です。農産物を加工するノウハウで、和菓子以外の食品作りにも挑戦していきたい」と門田さん。農産物の中には加工することによりポテンシャルを高められるものが多くある。例えば生で食べると酸っぱいオレンジも、砂糖を混ぜたジュースにすればゴクゴク飲める。そのまま食べると酸っぱいイチゴも、ゼラチンを溶かした砂糖水で艶やかにコーティングし、ショートケーキに乗せれば特別な存在に生まれ変わる。こうした加工により農産物のポテンシャルを高めることも、自分たち農産物加工業者の使命だと考えているのだ。

農産物加工業者としての挑戦はすでに始まっている。JR西日本と地域の事業者が共同で行う、地域の魅力を発信するプロジェクト「てみてプロジェクト」に参加。「瀬戸内果実研究所」という新ブランドを立ち上げた。瀬戸内果実を主役にしたブランドで、第1弾としてネーブルオレンジを、第2弾として八朔(はっさく)を使用したお菓子を発売している。今後はブドウやリンゴなどを使用した商品も展開していきたいそうだ。

また2023(令和5)年11月29日には、広島駅1F ekie KITCHEN内にも店舗をオープンした。この店舗の主力商品は「牡蠣出汁みたらしだんご」。広島県産牡蠣の出汁を使ったこだわりのタレを、手にぎりの焼きたて団子にたっぷり絡めた新感覚のみたらし団子だ。広島の食の魅力を感じていただける商品となっている。

菓子道に邁進する勉強堂が生み出した「瀬戸内果実研究所」と「牡蠣出汁みたらしだんご」、そしてこれから生み出されるであろう新たな商品に期待し、これからも注目してほしい。

勉強堂 本店

〒720-0411 広島県福山市熊野町乙1151-2 地図を見る

TEL/084-959-0025
営業時間/9:00~17:30
店休日/元日、その他不定休あり(公式サイトで要確認)

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