地域貢献とパティシエを両立
レモンケーキを磨き上げ
一層輝く「島ごころ」に
地域貢献とパティシエを両立
レモンケーキを磨き上げ
一層輝く「島ごころ」に
尾道市瀬戸田町/広島
2025.02.19
瀬戸内海のほぼ中央に位置し、生口島と高根島の2つの島からなる、広島県尾道市瀬戸田町。瀬戸内海特有の温暖な気候を生かしたレモン栽培が盛んに行われ、国産レモンの生産量日本一を誇ります。
そんな風光明媚なレモンの産地、瀬戸田町に本店を構えるのが、洋菓子店「島ごころ」です。看板商品の「瀬戸田レモンケーキ 島ごころ」は、2023(令和5)年に開催されたG7広島サミットでも提供されるなど、広島を代表する銘菓の一つとして知られています。
島ごころは元々、瀬戸田町出身のパティシエ・奥本隆三さんの「過疎化が進む地元に活気を取り戻したい」という思いから創業されました。しかしコロナ禍の売り上げ低迷期を経て、現在のあり方は変化しているといいます。瀬戸田町にある島ごころ本店に伺い、島ごころのこれまでの変遷とこれからの展望について奥本さんにお聞きしました。
SETODA本店で思いを語る代表の奥本さん
島ごころが瀬戸田町に創業したのは2008(平成20)年のこと。それまで奥本さんは神戸でパティシエ修行をしていたが、生まれ故郷の瀬戸田へ帰省するたびに寂しさを感じていたという。華やかな神戸に対して、過疎化が進み活気のない瀬戸田。そのギャップに「自分が子どものころは瀬戸田もエネルギッシュな島だったのに」と思わずにはいられなかったそう。自身に子どもが誕生して故郷を思い出すことが増えるとその思いは一層強くなり、パティシエとして瀬戸田のために何かできないかと真剣に考えるようになる。そして一念発起し、瀬戸田に島ごころを設立。特産品の瀬戸田レモンを使った「瀬戸田レモンケーキ 島ごころ」を開発、販売するに至った。
瀬戸田レモンケーキ 島ごころは、瀬戸田レモンの香りを存分に感じられるレモンケーキ。レモンの香り成分は果皮に含まれるが、生地にはこの果皮を細かく刻んで甘く煮込んだジャムが練り込まれている。また一般的なレモンケーキとは違い、ホワイトチョコレートでコーティングされていないのも大きな特徴。豊かな瀬戸田レモンの香りを、チョコレートの甘さに邪魔されることなくダイレクトに楽しめる。
瀬戸田を感じられる新感覚のレモンケーキは「レモンケーキの概念が変わる」「これこそレモンケーキ」と発売以降徐々に評判を集め、スーパーやサービスエリアなどへの卸販売が増えていった。また2017(平成29)年には直営店舗である尾道長江店、2018(平成30)年には広島ekie店もオープンし、2019(令和元)年になると年間販売数は約100万個に上るようになった。
レモンケーキの売り上げを伸ばし、瀬戸田レモンの認知を広め、地域おこしへの貢献も順調に進めてきた島ごころ。しかし2020(令和2)年に国内で新型コロナの流行が始まると、状況は一変する。レモンケーキの年間販売数が約50万個に激減し、事業の継続も危ぶまれる状態になってしまったのだ。
また、このころの奥本さんは地域おこしを優先するあまり、パティシエとして本当につくりたいものをつくることができず「自分を大切にできていない」と思い悩むようにもなっていた。自分のあり方、そして島ごころのあり方はこのままで良いのかと考える日々。
そんな中、奥本さんにある出来事が起きる。たまたま瀬戸田を訪れていた、立命館大学 食マネジメント学部の教授たちと意気投合。2022年にイタリアで開催予定のレモンジェラートのワークショップに、開催者としての参加を打診されたのだ。悶々とする日々だったこともあり、奥本さんは新たな経験をしてみようと参加を決めたという。
異国でのワークショップ開催は一筋縄ではいかなかった。参加者やジェラートの材料を集めるため、奥本さんは言葉の通じない中、現地を奔走することになった。しかしこの経験が悩みを解決する糸口となる。現地の人々と触れ合ううちに、熱意を持って自分が動けば、周りの人も動いてくれるということに気付いたのだ。
「自分が本当に何をしたいのかを見つめ直し、熱意を持ってパティシエとしての自分を磨けば、島ごころも磨かれる。それは売り上げが低迷する現状を打開し、地域を活性化することにもつながるはず」と思い至った奥本さん。自分も、地域貢献も、どちらもバランスよく大切にしていこうと決意した。
奥本さんはコロナ禍で時間があったこともあり、レモンケーキづくりに没頭。半年間で約35種類のレモンケーキを試作した。今ではスタンダードなレモンケーキをはじめとして、塩レモン、ビター、緑檸檬、そして瀬戸田ネーブルケーキの定番5種類と、季節の素材を使った12種類の季節ごとのレモンケーキを商品化している。季節の素材を使ったケーキづくりは奥本さんの得意分野であり、かねてよりやりたかったことでもあった。
またレモンケーキをさらに磨くべく、素材と製造工程の見直しも行った。素材については、それまで使っていた小麦からレモンケーキによりフィットする性質の小麦に変更。製造工程については、果皮のジャムをストックすることをやめ、出来立ての状態で生地に練り込むように工夫。レモンの香りがより際立つようにした。
さらにレモンケーキの見直しと並行して、社員の意識改革も行っていった。全社員に対して、レモンケーキの魅力について改めて考えてみるよう促したのだ。その結果、販売や営業に携わる社員は、お客様によりしっかりとレモンケーキの魅力を伝えられるように、製造に携わる社員はより美味しくなるような製造ラインを考えられるようになった。
こうした見直しが功を奏し、レモンケーキの年間販売数は過去最高の約150万個を達成。島ごころは売り上げ低迷の苦境を脱することに成功した。
島ごころ定番のレモンケーキ5種
自分を磨き、レモンケーキを磨き、輝きを増した島ごころ。瀬戸田レモンケーキ 島ごころは、2023(令和5)年に開催されたG7広島サミットへの採用を機に、広島の銘菓としてさらに認知を拡大している。
パティシエ、経営者、地域貢献の三足のわらじを履く奥本さんは、毎日忙しそうだが「これからも20年、30年と、このままの勢いで進んでいきますよ」と笑顔で今後の展望を語ってくれた。今は国内外の食品メーカーとコラボした新たなレモンケーキや、本場イタリアの味わいを再現したレモンジェラートなどの開発を進めているそう。また将来的には、銀座に島ごころの旗艦店をオープンし、自分を高め、島ごころとしてさらなる高みを目指し、瀬戸田の魅力を全国に広めていきたいという。
これからますます磨かれていくであろう島ごころ。ひときわ輝く未来の姿を楽しみに、今後の動向に注目していきたい。
SETODA本店には数多くの商品が揃っている
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