庄原の魅力を発信したい。
七塚原高原の生乳を使い
思いを込めてチーズを作る
庄原の魅力を発信したい。
七塚原高原の生乳を使い
思いを込めてチーズを作る
庄原市/広島
2024.04.10
広島県北東部に位置し、近畿以西では最も広い面積を有する庄原市。この地では昔から畜産が盛んで、1900(明治33)年には畜産振興の拠点として、国営種牛牧場(現広島県立総合技術研究所畜産技術センター)が全国で初めて設立された七塚原高原があります。
七塚原高原のすそ野にあるのが、株式会社敷信村農吉が運営するチーズ工房「乳ぃーずの物語。」。庄原インターチェンジから車を6分ほど走らせると到着します。工房には直営店が併設されており、オープンする土日祝日には広島県内外から、搾りたての生乳を使ったチーズを求めて多くの人が訪れています。
2013(平成25)年に運営開始されてから国内外のチーズコンテストで数多くの受賞をしている「乳ぃーずの物語。」。その製造責任者である積賀一輝さんに、チーズ作りへの思いや地元への思いを伺いました。
七塚原高原にある「市川牧場」
敷信村農吉が「乳ぃーずの物語。」の運営を開始したのは、2013(平成25)年のこと。運営開始のきっかけとなったのは、敷信村農吉が庄原市内で運営する保育所の給食だった。
そもそも敷信村農吉は、2006(平成18)年に保育所をきっかけとして誕生した会社だ。当時の庄原市では出生人口減少により保育所の利用者が減っており、市は保育所を統廃合した上で民間に運営委託を始めていた。その時、地域に新しくできる保育所を自分たちの手で運営するために設立されたのが敷信村農吉だった。
このような誕生の経緯から敷信村農吉では地域に元気を取り戻すため、地元生産者が大きな流通に頼らず生活できる仕組み作りにも力を入れている。地元の農家が作った野菜を保育所の給食として提供したり、オンラインショップをはじめ独自の流通経路を確保したりと、持続的な農業の実践に力を入れている。
そのような中で、どのようにすればより多くの方に、野菜を美味しく食べてもらえるかと思案する中で目をつけたのがチーズだった。庄原市にある七塚原高原は、1900(明治33)年に日本で初めて国営の種牛牧場が設立された歴史を持つ。地元の特色の一つである生乳でチーズを作り、野菜と合わせれば食べやすくなるのではないかと考えたのだ。
こうして運営を開始したチーズ工房「乳ぃーずの物語。」。工房で作られたチーズは現在、一般家庭や飲食店向けに販売され、好評を博している。
「乳ぃーずの物語。」の運営が開始された1年後、敷信村農吉に一人の新入社員が入社した。今回お話を伺った積賀さんだ。積賀さんは庄原市に生まれ育ち、地元にキャンパスがある県立広島大学に進学。そこで地域おこしについて学んだ。地域おこしについて学ぼうと思ったのは庄原が好きだから。「何もないと言われることもありますが、私はゆったり時間の流れる庄原が好きです。人も温かくて居心地がいいんですよ」と庄原の魅力について話してくれた。
積賀さんは大学卒業後の就職先も地元を希望し、敷信村農吉に入社。入社後は「乳ぃーずの物語。」でチーズの販売を中心に担当し、4年目から製造に専念。現在では製造責任者として平日は毎日チーズ作りをしている。
積賀さんが敷信村農吉に入社したのは大好きな地元で就職したかったからで、チーズ作りがしたかったというわけではなかった。しかし今はチーズ作りに魅力を感じ、生乳の歴史ある庄原だからこそ作れるチーズを通して、庄原の魅力を広く発信していきたいと思っている。
「モッツアレラ」を手早く製造中の積賀さん
入社後に一からチーズ作りを学んだ積賀さん。安定した品質のチーズを作れるようになるまでには、試行錯誤の日々があったという。「チーズは生き物」とよく言われるそうだが、まさにその通りで、作業のスピードやタイミング、季節によってその味は変化する。一定の味を出すために、撹拌のスピードやカットのタイミングなどにむらが出ないよう技術を磨いてきた。
また季節に合わせて熟成期間を変える工夫も行っている。チーズの原料となる生乳を生み出す乳牛は、季節によって飼料の摂取量が変化しやすい。冬は餌をたくさん摂取するため生乳は濃い味に、夏は餌の摂取量が落ちてあっさりした味になることが多い。このような生乳の変化に対応するため、季節に合わせて熟成期間を変えているのだ。
チーズという生き物を相手に試行錯誤してきた積賀さん。チーズの品質が安定していくとともに、職人としても自信を持てるようになっていったという。さらに2018年にNPO法人チーズプロフェッショナル協会が開催した全国大会で、カチョカヴァロが最優秀賞に輝いたのも大きな自信になった。受賞をきっかけに「乳ぃーずの物語。」が手掛けるチーズのイメージが、お客様の中に浸透していったことも嬉しかったという。
「乳ぃーずの物語。」は元々、より多くの方に野菜を食べてほしいという思いからつくられた工房。そのため野菜など他の食材の味を邪魔しない、癖の少ないチーズ作りをテーマにしている。「『乳ぃーずの物語。』のチーズといえば、癖が少なく食べやすい」という声が届くことは、コンテストの受賞にも負けない、嬉しい評価だという。
「乳ぃーずの物語。」が手掛けるチーズは、店頭や敷信村農吉の産直ネットショップ、広島県内のスーパー、JAの産直市などで販売されている。「乳ぃーずの物語。」のお店が開店する土日祝日には、広島県内外から車でやって来るお客様が後を絶たない。チーズを通して庄原の魅力を広く発信したいという積賀さんの夢は、着実に現実のものへと近づきつつある。
積賀さんは今後、商品の納品先を拡大していきたいと考えている。製造スタッフを増やし、空いた時間を使って自ら商品の売り込みも行いたいそうだ。また新商品の開発にも力を入れていきたいという。具体的にはカビを使ったチーズを考えているそうだ。
現在「乳ぃーずの物語。」ではキャパシティの限界までは製造を行っていない。しかし「将来的には納品先を増やしたり、新商品を開発したりして、キャパの限界まで製造したい」と積賀さん。その声には力がこもっていた。積賀さんの夢がかなう日が来ることを期待し、今後も「乳ぃーずの物語。」に注目していきたい。
癖が少なく食べやすいと評判の「乳ぃーず物語。」のチーズ
〒727-0016 広島県庄原市一木町533-4 地図を見る
TEL/0824-72-2062
営業時間/11:00~17:00
営業日/土・日・祝 ※お盆・連休等臨時営業致します。
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