こだわりの飼育法で
見た目も、味わいも、
唯一無二の豚肉を届ける
こだわりの飼育法で
見た目も、味わいも、
唯一無二の豚肉を届ける
福山市/広島
2025.09.03
広島県の最東部に位置する福山市。瀬戸内海を南に臨む温暖なこの地で、豚の繁殖から飼育、加工までを一貫しておこなっているのが、日本畜産株式会社です。同社が運営する瀬戸牧場では、「エコフィード」の使用や「放牧的飼育」の採用など、特徴的な手法により、霜降りのブランド豚「瀬戸のもち豚」を生産。さらに、加工場では自社の豚肉を使用し、ウインナーやジャーキーなどの加工品も製造しています。
瀬戸牧場がこうした他にはあまり見られない取り組みをおこなうのは、「他社とは違う、特色のある豚肉を届けたい」という思いから。養豚のこだわりや瀬戸のもち豚の魅力、瀬戸牧場のこれまでの歩みと今後の展望について、代表取締役の小林茂之さん、生産事業本部長の小林太一さんにお話を伺いました。
福山市街地にも近い、福山市瀬戸町にある瀬戸牧場
瀬戸牧場は1963年、太一さんの祖父によって福山市に創設された。創業当初は買い入れた仔豚の肥育をおこなっていたが、高度経済成長期の真っ只中で食肉の需要が高まっていたことから、やがて牛や鶏の肥育にも取り組むようになった。
事業は順調に拡大していった。しかし次第に、茂之さんは市場の競りによって価格が決まり、生産者に価格決定権がない現状に疑問を抱くようになる。そこで福山市内に直営店を出店し、生産した食肉の販売を開始。一時は7店舗にまで拡大した。その後、スーパーの台頭により縮小していったが、「せっかく自社の肉があるんだから」と、肉を使った惣菜や加工品の製造・販売に注力するようになる。そして福山市内に加工場を設立し、とんかつなどの惣菜や、ウインナー・ベーコン・ジャーキーといった加工品の製造を開始した。現在、直営店は閉店しているが、自社ECサイトなどを通じて消費者に直接届けており、価格を自ら決め、責任を持って販売するという当初の思いを、今もまっすぐに貫いている。
また、今から20年ほど前、茂之さんは瀬戸牧場の養豚方法についても大きく舵を切った。自信を持って本当に美味しい豚肉を生産するため、牛と鶏の肥育をやめて豚に専念することを決定。仔豚を買い入れるのではなく、繁殖から手がけることにした。こうして、現在の繁殖・飼育・加工を一貫しておこなう体制が整い、独自のブランド豚「瀬戸のもち豚」の生産へとつながっていった。
福山市引野町にある加工場前で語る、代表の茂之さん
現在、瀬戸牧場では約2000頭の豚を飼育している。飼育にあたって心がけているのは、他社との差別化だ。「スーパーには豚肉が溢れています。だから見た目も、味わいも、他とは違う『選ばれる豚肉』を生産したいんです」と茂之さんは話す。
そのために、特にこだわっているのが「餌」だ。太一さんによれば、「国内で飼育される食肉用豚の品種はほとんど決まっているので、味の違いを生む鍵は餌にあるんです」とのこと。瀬戸牧場では、一般的な豚の飼料にパンを中心とする食品残渣を配合した固形飼料と、食品残渣に水やビタミンを加えて発酵させたスープ状の「エコフィード」を与えている。
いずれも嗜好性が高く、食が進むことで、栄養状態の改善につながるという。さらに、発酵したエコフィードは腸内環境を整え、豚が健康に育つ助けにもなっているそうだ。こうした餌を与えた瀬戸牧場の豚肉は、脂肪が甘味を増し、筋繊維に脂肪が入って霜降り状になる。見た目も、味わいも、他とは一線を画す特色ある豚肉に仕上がっている。
また、食品残渣を利用することでフードロスの削減に貢献でき、近年の物価高による飼料コストの上昇にも対応できる利点もある。環境と経済の両面から見ても、理にかなった飼育法と言えるのだ。
瀬戸牧場の運営を担っている、長男の太一さん
差別化を図るため、瀬戸牧場では飼育環境にもこだわっている。養豚業界では、早く太らせて出荷するために、豚を自由に動けない狭いスペースで飼育するのが一般的だ。しかし、瀬戸牧場では一般的な飼育スペースの2〜3倍の広さを確保し、豚が自由に走ったり、遊んだりできる「放牧的飼育」を実践している。「身動きが取れない生活は、人間と同じように豚にとっても大きなストレスとなるはずです。健康的で美味しい豚肉を生産するには、豚のストレスを軽減できる飼育環境を整えることが不可欠だと考えています」と太一さんは話す。
さらに、飼育スペースの衛生面にも配慮している。地面には間伐材を細かく砕いたバークチップを敷き詰め、その中の微生物が豚の排泄物を分解する仕組みだ。これにより臭いが抑えられ、デリケートな生き物である豚が、臭いによるストレスを感じにくくなるという。
命を育てる現場だからこそ、心を込めた飼育が何より大切。そんな「当たり前」を丁寧に積み重ねることが、質の高い豚肉の安定供給につながると、瀬戸牧場は信じている。
現在、瀬戸のもち豚は市内のスーパーや飲食店などで提供されているほか、自社のECサイトや大手ECモールを通じて直接販売もされている。また、ウインナーやベーコン、ジャーキーといった加工品についても、これらのオンラインサイトを通じて販売中だ。
実際に食べた人からは「他と味が全然違う」「甘い」「味が濃い」と驚きの声が寄せられており、茂之さん、太一さんは嬉しく感じているという。そしてこれらの声を励みに、今後も豚肉に集中した一貫生産をおこない、さらなる差別化を図りたいと考えている。具体的には、霜降りの精度向上をめざしている。茂之さんによれば「霜降りになるためには、『餌』と『遺伝子』の両方が重要」とのこと。現在は餌の工夫によって霜降りを実現しているが、今後は霜降りの雄豚を集めて交配し、よりサシの入った霜降り肉を生産していきたいという。
どこでも似たような豚肉が手に入る時代——それは消費者にとって悪いことではないだろう。しかし「選ぶ楽しさ」や「思いがけない美味しさとの出会い」もまた、食の醍醐味であるはずだ。瀬戸のもち豚は、そんな食の楽しみを思い出させてくれる存在かもしれない。食卓で、豚肉の新たな魅力に出会ってみてはいかがだろうか。
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