尾道市/広島

生姜の力を、丁寧に引き出す。
「蒸し生姜」が叶える体温革命。
芯から温まる、一杯の設計図。

尾道市/広島

小倉 一洋_イトク食品

2025.12.24

穏やかな海と島々が織りなす風景、坂道に寄り添う町家や寺院、そして海沿いを走る鉄道――広島県尾道市は、瀬戸内の自然と人々の暮らしが寄り添う、歴史ある地域です。

この地では、1960年ごろから複数の企業が「粉末生姜湯」の製造を始め、独自の市場が育まれてきました。そのなかでも、イトク食品株式会社は他社とは異なるルーツを持つ存在です。多くのメーカーが菓子づくりを背景に生姜湯を手がけるなか、同社は製薬会社との共同開発をきっかけに参入。「生姜で体温革命」を社是に掲げ、体を温めることに重点を置いた商品づくりを続けてきました。

代表取締役・小倉一洋さんに、イトク食品が歩んできた道のりとこれからの展望、そして商品づくりにかける思いを伺いました。

思いを語る、代表の小倉さん

ひとつの出会いが導いた新たな道

イトク食品の始まりは1956年。小倉さんの父・伊徳さんが、海産物の加工会社として立ち上げたのが原点だ。昆布を切り分けて袋詰めにしたり、「すきみたら(鱈の身を塩漬けにし、寒風に繰り返しさらして水分を抜いたもの)」を、ふりかけやお茶漬けの具材として加工したりしていた。

転機が訪れたのは1982年。営業のために四国を訪れていた伊徳さんが、製薬会社の営業担当者と出会い、意気投合したことがきっかけだった。親交を深めるなかで、「風邪をひく前に体調を整えることが大切。昔から民間で親しまれてきた生姜湯を一緒につくってサポートできないか」との提案を受け、共同開発が始まった。

着目したのは、素材を直火で焼きながら乾燥させる「直火乾燥製法」。この製法により、生姜を衛生的に加工できるとともに、砂糖を加熱することで自然なコクが引き出され、味わいにも深みが増すという利点があった。こうして完成した粉末生姜湯は、風邪薬の景品として提供され、医薬品の分野からも支持を集めることとなった。

その後、二代目として小倉さんが就任。先代の時代に培われた粉末生姜湯の製造技術をもとに、独自の工夫を加えた「蒸し生姜」を使った商品の展開を本格化させた。蒸し生姜は、生の生姜を蒸して乾燥させたもので、体を温める成分ショウガオールが生の約33倍に増える(日本食品分析センター調べ)。そうした特長を生かし、多彩な味わいの粉末生姜湯を次々に商品化。近年ではシロップタイプの「クラフトジンジャー」シリーズも加わっている。現在では、水産加工から完全に転換し、生姜を軸にした食品メーカーとしての体制を整えている。

尾道市にある本社工場

温めるための生姜湯を届けたい

尾道市には複数の生姜湯メーカーがあり、独自の市場を形成している。しかし、小倉さんは「多くはお菓子づくりから派生して生姜湯を始めた企業。一方、当社は製薬会社さんとの共同開発が出発点。ルーツが異なります」と語る。この背景から、イトク食品は「生姜で体温革命」という社是を掲げ、体を温めることをテーマとした商品開発を続けてきた。

生姜には辛味成分の「ジンゲロール」が含まれ、血行を促して体を温める働きが期待できる。ジンゲロールは加熱により「ショウガオール」に変化することが知られており、ショウガオールは胃腸を刺激して内臓の働きを活性化させ、体を中から温めるとされている。イトク食品の商品には、生の生姜と蒸し生姜の両方が使用されており、体を芯から温める構成になっている。また、味についても甘さ控えめで生姜の風味をしっかり感じられ、独自の味わいを楽しめる。

他社とは異なる視点で生姜湯を展開していったイトク食品。しかし、発売当初は独自の方向性が理解されにくく、「生姜湯は嗜好品。そこまでこだわる必要はない」といった声もあったという。状況が変わったのはコロナ禍になってから。体調管理を意識する人が増えたことで、イトク食品の生姜湯を試す消費者が拡大したという。また、暮らしにまつわる商品を比較・検討する生活情報誌で、「生姜湯部門」の1位に選ばれたことをきっかけに、ドラッグストアでの販売数も伸びた。こうした動きを追い風に、現在も安定した販売を続けている。

「生姜で体温革命」を起点に、さまざまな商品を展開している

もっと多くの人に、温もりを

現在、イトク食品の商品は広島県内のスーパーやドラッグストア、複合商業施設、道の駅などで販売されている。さらに、大手リゾート会社が運営する全国各地の温泉旅館からの依頼にも応じ、OEM製品を製造。自社オンラインショップでは、一般消費者への直接販売もおこなっている。

今後は、販路のさらなる拡大に加え、新商品開発にも積極的に取り組む予定だ。体を温めるとされる新しい食材を、商品に取り入れることも視野に入れているという。また、既存の「クラフトジンジャー」シリーズからは、砂糖不使用の新商品を展開する計画があり、石川県のハーブ農園に依頼して、甘みがありながらもカロリー控えめなハーブを栽培してもらっている。このハーブを用いた試作品づくりも進められており、2026年中の完成をめざしている。

「体を温めるという軸は、これからもぶらさずにやっていきたいです。私たちは小さな会社なので、理念やこだわりを広く伝えるのは簡単ではありません。だからこそ、味わいやカロリーなど、さまざまな角度から商品を発信し、より多くの方に手に取ってもらえるようにしたい。その結果として、一人でも多くの方の体を温める手助けになればうれしいですね」。と小倉さん。穏やかな言葉には、商品づくりへの揺るぎない信念がにじんでいた。

こだわりを持ってものづくりを続けてきたイトク食品。その商品は、これからも手に取る人の体と心をそっと温める。

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