世羅の大地に育まれたぶどう
人の手と思いで、未来を醸す
その一杯から、町がつながる
世羅の大地に育まれたぶどう
人の手と思いで、未来を醸す
その一杯から、町がつながる
世羅町/広島
2025.11.26
広島県の中東部に位置する世羅町。標高350~450mの世羅台地が広がるこの地では、昼夜の寒暖差を生かして、梨やぶどうなどの果物が盛んに生産されています。
その世羅町で、地元産のぶどうを使用して「せらワイン」を醸造・販売しているのが、「せらワイナリー」です。広大な敷地を有する「せら夢公園」内に、醸造所やショップ、レストランなどを展開し、世羅町の一大観光名所となっています。このせらワイナリーは、世羅町の振興を目的に設立されたもの。世羅町と兵庫県伊丹市の小西酒造株式会社が出資する株式会社セラアグリパークが運営しています。
今回、せらワイナリーを訪れ、代表取締役社長・金廣隆徳さんと醸造長・橋本悠汰さんにお話を伺いました。金廣さんは現役の世羅町副町長でもあり、橋本さんは人生で初めて口にしたお酒がせらワインだったというエピソードの持ち主。世羅町とせらワイナリーをこよなく愛するお二人が語った、設立の背景や今後の展望、そしてせらワインの魅力をご紹介します。
代表の金廣さん(右)と、醸造長の橋本さん(左)
せらワイナリーは、世羅町の農業振興・雇用創出・観光振興を目的に設立された。世羅町では、以前から無袋栽培による梨の生産が盛んに行われてきた。2000年ごろになると、さらなる農業振興を目指してぶどうの栽培が注目され始める。町の働きかけにより、新たに農業に取り組む人も現れ、ぶどうの生産者が増えていった。梨に次ぐ果樹としてぶどうの作付けが振興され、新たな産業振興として町を挙げてワイナリーを設立し、ぶどうをワインに加工・販売する構想が生まれた。ワイナリーがあれば、ぶどうを一年中楽しめる形で提供できるようになるだけでなく、新たな雇用が生まれ、観光客の誘致にもつながる。
こうして2002年、第3セクター方式(国や地方公共団体と民間企業が共同出資して設立した法人が事業を運営する方式のこと)により株式会社セラアグリパークが創業。2006年には、「せら県民公園」に併設する形で、「せらワイナリー」が設立された。これらの施設は総称して「せら夢公園」と呼ばれ、敷地内には醸造所のほか、試飲ができるショップや、地元食材とワインを楽しめるレストランなども設置されている。
現在、せらワイナリーには社員約40名が在籍しており、その多くが世羅町在住者。ワインづくりにおいては、世羅町の農家約20件と契約し、仕入れたぶどうから年間およそ6万本を醸造している。観光面でも成果は大きい。県内外から年間12万人ほどが訪れ、世羅町を周遊するなかで立ち寄る人や、施設内のショップでお土産としてワインを購入する人、バーベキューテラスで地元産の肉や野菜とともにワインを楽しむ人など、観光客の姿が多く見られる。農業振興・雇用創出・観光振興という設立当初の目標は、着実に実現されつつある。
広い敷地を有するせらワイナリーでは、さまざまなイベントも開催される
醸造において、せらワイナリーが大切にしているのは、ぶどう本来の風味を生かすこと。「つくり手が何かを加えて変化を起こすのではなく、ぶどうの良さを引き算せず、100%の魅力を引き出すことを意識しています」と橋本さんは語る。ぶどうの味でワインの出来栄えが決まるため、生育が始まる春ごろから、橋本さん自ら契約農家の圃場を訪れ、木の様子を確認する。農家と密にコミュニケーションを取りながら、「困ったことはないか」「今年の出来はどうか」といった情報を共有し、栽培状況を的確に把握。必要に応じて助言や調整をおこなうことで、より良いぶどうづくりを支えている。
ここまで情熱を注ぐ背景には、せらワイナリーへの特別な思いがある。実は橋本さん、20歳になって人生で初めて口にしたお酒が、せらワインだった。その飲みやすさと美味しさに感動し、ワインの世界に魅了されたという。ついにはせらワイナリーに就職し、今日に至っている。
そんな橋本さんが手がけるワインには、自身が初めて口にしたときの感動が息づいている。飲みやすく、優しい味わいが特徴で、「主張が強すぎず、食事にも合わせやすい」と言った声が多く寄せられているという。近年、若年層を中心にお酒離れが進むなかでも、「これなら飲める」「初めてワインを美味しいと思った」といった反応があり、新たなファン層獲得にもつながっている。
世羅産のぶどうでワインづくりをしている醸造所
せらワインは、施設内のショップだけでなく、広島県内の道の駅や百貨店、大阪駅直通の商業施設、東京・銀座の広島県アンテナショップ、さらには埼玉県の酒販店など、さまざまな地域で販売されている。また、自社オンラインショップも展開しており、遠方の方にも届けられる体制が整っている。
着実に販路を広げているせらワイナリー。しかし、関東・関西の都市圏では、その名が十分に知られているとは言い難く、さらなる認知拡大が求められている。そこで現在は、人気VTuberとのコラボワインや、写真やメッセージを入れられる「オリジナルラベルワイン」など、話題性のある商品開発にも力を入れている。せらワイナリーを知ってもらう入口を増やしていきたい考えだ。さらに、金廣さん自ら東京や大阪の取扱店を訪れ、試飲販売を通じて対面で魅力を伝えている。回数を重ねるごとに「前に買って美味しかったから、また来た」という声も増えており、手応えを感じているという。
「私は都市圏で魅力を伝え、橋本さんはより良いワインづくりに励み、社員はお客様をしっかりお迎えする。それぞれが自分の役割を全力で果たすことで、せらワイナリーの認知を広げていきたいと思っています。副町長としての立場からも、こうした取り組みが世羅町全体の活性化につながっていくことを期待しています」と金廣さんは語る。
地元のぶどうを使い、地元の人々の手で丁寧に醸されるせらワイン。その一杯には、世羅町の自然の恵みと人の力、そして未来への願いが込められている。

〒722-1732 広島県世羅郡世羅町黒渕518-1 地図を見る
TEL/0847-25-4300
営業時間/9:00~17:00(1・2月/10:00~16:00)
店休日/火曜日・年末年始
※ただし、祝日・イベント期間は営業
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