原料栽培から販売まで
ワンストップでクラフトビールを醸造
地域社会に根差す「うついブルワリー」
原料栽培から販売まで
ワンストップでクラフトビールを醸造
地域社会に根差す「うついブルワリー」
下関市/山口
2024.06.19
新下関駅から車で北に15分ほど。緑豊かな下関市内日(うつい)地区の山間に映えるテラコッタカラーの建物が「うついブルワリー」です。こちらのブルワリー(醸造所)で造られるのはオリジナルクラフトビール「VACAN CRAFT(バカンクラフト)」。丁寧に仕上げられたその味は、醸造所内のタップルームでも楽しむことができます。
窓越しに醸造設備を眺めながら中へ入っていくと、醸造責任者を務める友村栄幸さんが出迎えてくれました。友村さんは障害福祉サービス事業所「グリーンファーム」の管理者・精神保健福祉士でもあります。うついブルワリーは地域に根差した福祉サービスを実践する「社会福祉法人 内日福祉会」によって運営されています。友村さんのお話を伺うと、うついブルワリーにまつわるさまざまな思いや物語が見えてきました。
うついブルワリーOPEN時には店頭にも立つ友村さん
2023(令和5)年6月にオープンしたうついブルワリー。ビールの主原料である「ホップ」を自家栽培し、一部の商品に加えている点が特徴の一つだ。拡大を続けるクラフトビール業界にあっても、原料を栽培しているケースは少ない。栽培・醸造・販売をワンストップで管理することで品質と美味しさを追求している。
かねてより社会福祉法人の一員としてグリーンファームの運営を任されていた友村さんだが、新たな事業の創出により、利用者さんの工賃をさらに高めていきたいと考えていた。併せて人口減少が進む内日地区を盛り立てられればとの思いも抱いていた。そのような中「すでに取り組んでいる農業を生かして何かできないか」と、2019(令和元)年ごろに具体的な検討を開始。国内産は希少性が高いホップの栽培を候補に挙げた。
とはいえホップを作って売るだけでは付加価値を与えることが難しい。思案するうちに「それならばクラフトビールの醸造まで一貫して手掛けよう」と決めた。当時の下関にはクラフトビールの醸造所がなかったことも後押しになったという。こうして、うついブルワリーの歩みがスタートした。
自社栽培のホップの実
醸造のノウハウは和歌山のブルワリーで習得した。友村さんの趣味の一つである、トレイルランニングの大会での完走賞として口にしたクラフトビールに魅力を感じ、そこから縁がつながったそうだ。ホップの自家栽培に着手しつつ、醸造について実践的に学ぶ日々。3年半ほどは和歌山での委託醸造という形で商品化・販売を進めた。
2020(令和2)年にはわずかに採れた自社栽培のホップを使用して試験醸造。すでに「自社栽培のものを何か入れたい」との思いから、原料の一部に内日産コシヒカリを使用したクラフトビールを醸造していたが、そこから2年ほど遅れて自社栽培のホップを加えたクラフトビールも本格的な商品化・販売に至った。今では2aの圃場にて栽培されている、うついブルワリーのホップ。醸造所の横にも一部が移植されており、6月から7月の収穫時期には軽やかに伸びゆくツルを間近で見ることができる。
委託醸造を通じて研鑽を積みながら、地域に根差したオリジナルクラフトビールと醸造所を形にしていった友村さん。うついブルワリーのオープンによって、内日産のVACAN CRAFTを堪能できるようになった。バカンというワードも下関の古称である馬関に由来するそうだ。さらに「馬関=Valuable Ale Can」とし、「地域と共に創る価値ある(Valuable)クラフトビール(Ale beer)で下関に新産業を立ち上げ、地域活性化と障がいのある方々の幸せな暮らしが実現できる(Can)」との思いをネーミングに込めた。
緑の中に映える「うついブルワリー」
次第に種類を増やしているVACAN CRAFT。現在は01・02・03・04が定番商品という。「01 Rice」は苦味控えめでクラフトビールが初めての方でも飲みやすい1本。「02 Weizen」は南ドイツ発祥の小麦麦芽を使用した伝統的なビアスタイルだ。「03 IPA」はアロマホップの苦味と華やかな柑橘系の香りが特徴。3種とも原料の一部に内日産コシヒカリも使用している。続く「04 Hazy IPA」はアメリカンホップを原料にフルーティーかつジューシーに仕上げた。それぞれ個性的な味わいでクラフトビールの醍醐味である飲み比べが楽しめる。
「00 Fresh Hop」にはその名のとおり内日産のフレッシュポップが使用されている。昨年はホップ収穫後の9月頃に1200本ほどが限定で醸造されたが、年内には完売した。フレッシュホップ特有のグラッシー感(草のような青々しさ)は海外産の乾燥させたホップではなかなか味わえない。今年も8月末から9月に掛けて限定醸造される予定ということで注目したい。その他には準レギュラーと位置付けられる「05 Juicy Ale」の苦味付けにも内日産のフレッシュホップが使われているそうだ。現在は生産量の関係で自社栽培のホップを加えたVACAN CRAFTは限定商品となっている。それだけに見掛けた際には是非とも口にしたい。
なお、VACAN CRAFTはうついブルワリーに加えて、下関市やその近隣の酒屋・コンビニエスストアなどでも買い求めることが可能。ポップなラベルも目を引き思わず手に取りたくなる。
期間限定販売となる「00 Fresh Hop」
クラフトビールの更なる展開に注力しながら、うついブルワリーの根幹にある福祉的な視点も忘れない。青空の下での原料栽培や醸造所における瓶詰めに接客。さまざまな工程を通じてグリーンファームに通う利用者さんの作業・やりがいの創出を目指してきた。醸造所のオープンによって利用者さんたちが多くの人と触れ合う機会も格段に増えたという。地域のイベントに参加することもあり「今までとは違う作業が増えたことを利用者さんも楽しんでいる」と友村さんも目を細める。
現在はクラフトビール事業を軌道に乗せて、より高い工賃という形で利用者さんに還元することが目標だ。すでに平均以上の水準ではあるが「事業計画としては工賃の倍増を目指しています」と意気込む。そのためには製造量の安定が欠かせない。うついブルワリーは今後を見据えながら歩み続けている。
作業の最終工程は利用者さんの手によって
現在は土曜日の11:00~15:00をベースに月3回ほど営業しているうついブルワリー。香り豊かで味わい深いVACAN CRAFTは「飲みやすい」と評判で毎月欠かさず訪れるファンもいるという。クラフトビールを片手に初対面の方同士が会話を楽しむ場面も多い。タップルームは新たなにぎわいの場としても機能している。
その様子を見て「人が集まるところには新しいものができるから。そういう意味でもこの場所を作りたかった」と語る友村さん。地域とそこに住む人々への思いを起点にゼロから事業をスタートしたが「他にないことが好きなので」と笑って苦労を感じさせない。既存のレールがない道を進んできたうついブルワリーが、今後どのような景色を見せてくれるのか。引き続き注目したい。
〒750-0253 山口県下関市内日下1076 地図を見る
TEL/083-250-9102
営業時間/11:00~15:00
営業日/月3回ほど土曜日に不定期オープン(SNSにて告知)
Instagram https://www.instagram.com/utsuibrewery/
Facebook https://www.facebook.com/p/Utsui-Brewery-100048941197210/
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