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周南市/山口

フグ延縄漁発祥の地
「粭島」の文化と魅力
そこで暮らす人々を訪ねる

周南市/山口

惠良 桂衣_Fleur Parler ~フルール パルレ~

2024.04.24

トラフグの皮コラーゲンを配合した「FUKUSOAP」を手掛ける、「Fleur Parler ~フルール パルレ~」の代表・惠良桂衣さん。商品を開発する過程で、フグの延縄(はえなわ)漁発祥の地が、周南市の南に位置する「粭島(すくもじま)」であることを知りました。フグといえば下関が有名ですが、もともとフグの延縄漁法を始めた粭島の漁師が、下関の漁港に卸したことがきっかけなのだとか。下関のフグの源流は粭島にあるともいえるでしょう。

フグを通じて粭島に暮らす人々と交流を深めていった惠良さん。FUKUSOAPと共に、主原料となるフグの歴史的な背景を知ってもらうため、粭島についてより広く発信していきたいと考えています。そんな惠良さんの思いを受けて訪れた粭島で「ホーランエー食堂」を営む温品さんご夫妻と、元漁師の髙松さんに粭島の現在地とその魅力を伺いました。

フグの延縄漁の様子

人々が憩う場所「ホーランエー食堂」

徳山駅から車を走らせること約30分でたどり着く粭島。海沿いの道を進んでいくと、「海を渡る神輿」として全国的に有名な貴船神社夏祭りの中心となる貴船神社が見えてくる。その隣の地で木曜日と土曜日のみ営業しているのが、大正時代の古民家を改修した「ホーランエー食堂」だ。ふるまわれるのは店主手打ちの蕎麦や自作の薪窯で焼き上げるピザ、漁師から譲り受けた魚で作るじゃこ天など。店には地元だけでなく県外からも人々が訪れ、ゆったりとした憩いの時間が流れている。

店主の温品徹さんは粭島の生まれ。以前は海育ちゆえに山に囲まれた田園風景に心惹かれ、そこで米を作る自給自足の生活に憧れていた。しかしながら、東日本大震災の発生が「故郷」を見つめなおすきっかけとなる。改めて粭島の素晴らしさを実感するとともに、生まれ育った地で朽ち果てそうになっている古民家を何とか活用したいと、2015(平成27)年に店をオープン。山から海と当初のイメージとは離れたが、海産物などのその土地で取れたものを軸に日々の暮らしを営むという、長く夢見た生活を形にした。印象的な店名は貴船神社夏祭りの「ホーランエー、ヨヤサノサー」という掛け声にあやかったものだ。粭島はもちろん祭りへの思い入れも強く「有名な祭りがあるから、それを続けていくためにも人がおらにゃいけん」と語る。

粭島の漁師の数は減少の一途をたどっている。フグの延縄漁発祥の地で、その文化が失われつつあることに、父親が漁師であった徹さんも寂しさを感じているようだった。改めて粭島の魅力を伺うと、新幹線が停まる駅から30分ほどという利便性、そして閉鎖的ではない人々の気質との答えが返ってきた。柳井市出身の妻・理恵さんも「住みやすい。ここが一番いいです」と頷く。

温品さんご夫妻の柔和な雰囲気と心地の良い空間に癒されるホーランエー食堂。前提として自分が楽しむことを忘れないようにしているという、徹さんの姿勢も店の魅力につながっているのだろう。今日もまた食堂内に人が集まり笑い声が響く。フグの延縄漁全盛期の賑わいは失われたというが、近年は若い移住者や新しい店も見受けられるようになった。ホーランエー食堂がこれからの粭島において大きな役割を果たすことは間違いなさそうだ。

フグ延縄漁発祥の島を見つめ続けて

次に粭島のお話を伺ったのは、かつてこの地でフグの延縄漁に携わっていた髙松文智さん。漁師をやめた後も粭島に暮らし、その変遷をつぶさに見つめてきた。

髙松さんが船に乗った期間は30年ほど。ホーランエー食堂の店主・徹さんの父親と海へ出ることもあったという。当時の粭島はフグの延縄漁全盛期。あまりにも船の数が多く、遅く帰ると港に着けられない状況も起きていた。当時一番の下っ端だったという髙松さんの大事な仕事は船内での飯炊き。その頃に食べた、分厚いフグの刺身や肝の美味しさは忘れられない。

延縄漁の特徴は、フグがもみ合いながら引き上げられる底引き網漁などに比べて、魚の肌に傷が付きづらいこと。フグは捨てる部位がないといわれるが、フグの延縄漁が主流となったのはそれが理由の一つでもある。しかし、やがて水温の上昇とともにフグの漁獲量は激減。粭島の漁師と船の数も少なくなっていった。残った高齢の漁師が引退すればフグ延縄漁の文化は失われてしまう。「もう完全になくなるでしょうね」とのつぶやきが印象的だった。

粭島の隆盛を知る髙松さんにも島の魅力について尋ねると「夕焼け」と答えてくれた。生まれも育ちもこの島で、何度も眺めている景色だが、季節による変化もあり見飽きることはないという。たまたま撮影したという携帯電話に残されていた夕焼けの写真を見せてもらったが、美しい海に真っ赤な太陽が沈んでいく様は素晴らしかった。知る人ぞ知るスポットになっているようで、遠方からその夕景を見に来る人も多いそうだ。

現在も祭りに参加するなどして島の文化を伝える一翼を担う髙松さん。「粭島はフグの延縄漁発祥の地」という歴史しか残らないかもしれないが、その語り部としての役割は、粭島の現在と未来に欠かせないものといえるだろう。

「Fleur Parler ~フルール パルレ~」が展開する商品を介して訪れた粭島で、そこに暮らす人々と憩える場所に出会うことができた。「FUKUSOAP」や「FUKUMASK」を手に取った方は粭島に訪れてみることをおすすめする。商品の背景にある歴史や文化、そこに関わる人々の心情にまで思いを馳せてほしい。

ホーランエー食堂2階で髙松さんと惠良さん

ホーランエー食堂

〒745-0804 山口県周南市粭島180 地図を見る

TEL/0834-84-0001
営業時間/11:00~14:00
営業日/木・土

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