29.2秒の軌跡
紙ヒコーキに宿る
ものづくりの真髄
29.2秒の軌跡
紙ヒコーキに宿る
ものづくりの真髄
福山市/広島
2025.10.01
福山市に本社を置く「キャステム」。精密鋳造部品の製造販売を主軸に展開する一方で、確かな技術と社員たちの創造力が光るオリジナル製品の開発にも注力しています。加えて、農業分野といった幅広い事業に進出。「紙ヒコーキ事業」もキャステムを代表する新規事業のひとつです。
株式会社キャステムの代表取締役を務める戸田拓夫さん。会社の舵取りを担う一方で、「折り紙ヒコーキ協会」の会長も務めるなど、その活動は多岐にわたります。さらに、「紙飛行機の最も長い滞空時間」でギネス世界記録を保持しているというから驚きです。どのような経緯があり、紙ヒコーキへひとかたならぬ情熱を注ぐに至ったのか。これまでの歩みや紙ヒコーキの魅力、事業を通じて思い描く未来について、詳しく語っていただきました。
戸田さんがギネス世界記録を樹立した際の記念写真
大学2年生で体調を崩したことをきっかけに紙ヒコーキづくりを始めたという戸田さん。もともとおもちゃの企画開発に携わりたかったというほどクリエイティブな作業に興味もあったが、キャステム入社後しばらくは時間的余裕がなく、紙ヒコーキから離れていた。しかし、航空機用部品の発注を受けたことで情熱が再燃。取り引き先にスペースシャトル型の紙ヒコーキを披露すると大いに驚かれ、次第に指導や展示の依頼が舞い込み始めたという。
その後、キャステムとして紙ヒコーキ事業に取り組むように。1995年には折り紙ヒコーキ協会が設立された。さらに、2001年には「紙ヒコーキ博物館」を開館。同施設には戸田さんが手掛けた400機種ものオリジナル紙ヒコーキに加え、貴重なギネス世界記録証明書も展示されている。
ギネス世界記録の証書
折り紙ヒコーキ協会の活動は実に幅広く、スケールが大きい。紙ヒコーキ教室や各種イベント、大会などを精力的に開催しているが、そのフィールドは海外にまで及ぶ。特にタイでは国営科学博物館がサポートする科学イベントにて指導エリアを設置。10日間のイベントには100万人もの人々が訪れ、戸田さんはその著作を手にした子どもたちのサイン攻めに遭ったそうだ。
「タイは自国の将来的な技術力アップにつながるものと期待して、子どもたちが技を使う遊びに親しむことを推奨しているんです」と語る戸田さん。紙ヒコーキはシンプルなつくりながら、折り方や投げ方の調整ひとつで大きく滞空時間が変わる。そこにはものづくりの真髄が内包されているともいえるだろう。
室内滞空時間29.2秒を達成した、紙ヒコーキ
戸田さんが紙ヒコーキによる室内滞空時間29.2秒のギネス世界記録を達成したのは、2010年のこと。紙ヒコーキ文化は世界中に存在しており、各国が記録更新の機会を虎視眈々と狙っているという。コロナ禍の影響によって一時は活動が停滞したものの、現在は航空会社を巻き込んだ世界大会の開催構想も温められている。
「シンプルで、誰もが一度は経験しているのに、極める人は少ない。だからこそ、この競技で世界一を取ることには、大きな意味があるんです」と戸田さんは微笑む。1枚の紙から生まれた挑戦は、記録を超え、文化をつなぎ、新たな空をめざす。戸田さんたちの思いを乗せた紙ヒコーキは、今後どのような軌跡を描くのだろうか。
〒720-0004 広島県福山市御幸町中津原1396 地図を見る
TEL/(開館時)084-961-0665・(開館時以外)084-961-0669
開館日時/毎週土曜日10:00~16:00
入館料/100円・3歳未満無料(小学生以下は要保護者同伴)
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