蒲鉾の原点を守り、未来を拓く
「グローカルチャー」を掲げ
受け継いだ技と思いを、世界へ
蒲鉾の原点を守り、未来を拓く
「グローカルチャー」を掲げ
受け継いだ技と思いを、世界へ
長門市/山口
2025.10.15
長門市駅から車で5分ほどの場所に本社工場を構える「フジミツ」。1887年の創業以来、仙崎地方発祥とされる「焼き抜き」の技法を受け継ぎながら、魚の旨味を存分に生かした蒲鉾を手掛けています。一方で、多様なシーンに馴染む新たな練り製品の開発にも注力。スナック感覚で楽しめる「チーズころん」などが人気です。
今回お話を伺ったのはフジミツ株式会社の代表取締役会長兼社長を務める藤田雅史さん。老舗の五代目として本社工場の統括工場長などを歴任のうえ、数々の改革に乗り出してきました。現在も自ら海外まで足を運んで精力的な活動を続けていますが、基盤にあるのは蒲鉾製造の伝統と文化を伝えてゆきたいという思い。フジミツの歴史を辿りながら、企業の現在地や今後の展望についても共有いただきました。
藤光海風堂本店内で思いを語る、代表の藤田さん
長門市の小さな漁師町である仙崎の地で創業したフジミツ。初代藤田久蔵氏が旅館業の傍ら蒲鉾製造に着手し、二代目光蔵氏の時代には本格的な蒲鉾づくりをおこなう「藤光商店」が設立された。四代目を継ぐ光久氏は冷凍すり身を原料とすることによって大量生産を可能に。同時に県外の販路を獲得して大手量販店との取り引きを始めるなど、フジミツの成長を支えたという。
1964年には高級焼抜蒲鉾から揚げ蒲鉾まで製造する蒲鉾総合メーカーとして「藤光蒲鉾株式会社」が始動。その3年後には受注量の増加を受けて、現本社所在地に新工場が建設された。藤田さんは幼いころよりこうした変遷をつぶさに見届けながら、いつかは自分が会社を継ぐことになると認識していたそうだ。山口大学経済学部、陸上自衛隊幹部候補生学校を経て米国シアトルへ語学留学し、帰国後フジミツに入社。繁忙を極めていた三隅工場の統括工場長として、現場に立つこととなる。
藤光海風堂本店の壁面は、蒲鉾の板でできている
9月30日に帰国して、10月1日には三隅工場に赴いた藤田さん。おでんシーズン到来による繁忙期突入を見越した父の光久氏より、従業員のために残業時間を減らすよう指示された。これを受けてコンベアで流れてくる段ボールの封を閉じる作業を担いつつ、現場の状況を注視。毎回作業が長引くラインのみ早朝から稼働させるなど、作業の効率化を図ることによって、残業時間の削減に成功したという。
統括工場長を4年ほど勤めて前例踏襲型の組織風土を改めた後は、営業をやりたいと志願。さらなるシェア拡大を睨んで新商品の開発に取り掛かる。商品開発の面では保守的だったという光久氏と議論を交わす場面もあったが、蒲鉾以外のラインナップをより充実させることに。練り製品自体の市場規模が縮小傾向にあるなか、女性や子どもも楽しめる新機軸のアイテムを生み出したいとも考えた。
練り物を中心に、さまざまな商品が販売されているフジミツ海風堂本店
そんなあるとき、藤田さんは酒の席で提供されたスナック菓子入りのバスケットを見て「こうしたシーンに練り製品があってもいい」と思い付く。そこからイメージを膨らませていき、おやつやおつまみ感覚で気軽に口へ運ぶことができる「チーズころん」を完成させた。一口サイズで個包装されており、切り分けて加工する必要がない点は練り製品の業界において画期的だったそう。1998年の発売当初こそ苦戦を強いられたが、地元の有名旅館がお茶請けとして振る舞ったところ人気に火が付き、2001年に開催された山口きらら博では売り上げナンバーワンを達成する。
チーズころんが人気を博したことで成功の感覚が掴めたと振り返る藤田さん。その後も型にはまらない発想力と高い技術力を強みに、さまざまな商品を提案するようになった。なお、フジミツが手掛けるバラエティに富んだ商品は本社工場併設の「藤光海風堂本店」や、中四国・九州エリアを中心とした量販店、「藤光海風堂 オンラインショップ」などで買い求めることが可能。もちろん、昔ながらの技法で焼き上げた伝統的な蒲鉾も見逃せない。フジミツこだわりの味をぜひ堪能してほしい。
藤田さんのひらめきから商品化され、人気の定番商品となっている「チーズころん」
藤田さんが五代目の代表取締役に就任したのは2002年のこと。その5年後には社名を「フジミツ株式会社」に変更するとともに理念を一新し、フジミツは水産練り製品のみではない総合食文化創造企業としての発展に向けて舵を切ることになった。日本の食文化を世界へ広げるため、海外での取引拡大に注力。単に商品を輸出するだけでなく、質の高い製品を仕上げる技術やコストダウンのノウハウなどを商材としている点が特徴的だ。
現在は多角的な経営に取り組みつつ、従業員がより働きやすい環境を整備することにも重きを置いている。適切なマネジメントをおこなって働きがいが感じられるよう心を配り、人材を確保することで、フジミツの組織力やブランドイメージをさらに高めていく。創業130年余の老舗でありながら、フジミツの進化は止まることがない。
取材に同席いただいた、営業本部長の河野さん(右)と本社玄関前にて
必要な改善改革を推し進めてきた藤田さんだが、仙崎の地で育まれた蒲鉾製造の伝統技術やフジミツの歴史を受け継ぐこともまた自身の責務と考えている。地域(ローカル)の伝統を守り、その食文化(カルチャー)を世界(グローバル)へ広げていくことをめざして「グローカルチャー」なるワードを一つの指針に据えた。
グローカルチャーの精神を体現するのが「白楽」だ。焼き抜きの技法により板の下からじっくり焼いた昔ながらの蒲鉾で、風味、食感ともに最高峰といえる白楽。近海で獲れた高級魚・えそを自社工場ですり身にし、手間をかけて丁寧に仕上げている分、収益は出にくい。それでも、白楽という商品を製造し続けて技術や職人を絶やさないことが重要という。「時代の流れに沿ってダイナミックな変革を遂げても、忘れてはならない原点やルーツは必ずある。それを継承しながらより広く発信することが成長の軸です」という言葉が印象的だった。
日本海に面した仙崎にはかつて20社を超える蒲鉾屋があり、お互いが学び競い合うことで日本有数の蒲鉾名産地になったという。現在蒲鉾屋の数は半減しているものの、今に息づく文化は時代に合ったかたちを模索しながら進化を遂げている。今後フジミツがどのような継承と変革の道を歩んでいくのか、ますます目が離せない。
フジミツの原点といえる商品「白楽」
〒759-4101 山口県長門市東深川2537-1 地図を見る
TEL/0120-48-2432
営業時間/9:00~17:00
店休日/元日・毎週水曜日
(祝日の場合は営業、翌日木曜日が店休日)
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