広島の風土を映す
蒸留酒をつくり、伝える
桜尾と戸河内から
広島の風土を映す
蒸留酒をつくり、伝える
桜尾と戸河内から
廿日市市/広島
2026.07.01
南に瀬戸内海、北に中国山地が広がる、広島県廿日市市桜尾。前身である中国醸造株式会社の時代から、この地を拠点に酒づくりを続けてきたのが、株式会社サクラオブルワリーアンドディスティラリー(以下、サクラオB&D)です。清酒や焼酎、リキュール、みりんなどを手がけるなか、2017年には桜尾に蒸留所を開設。現在は、ウイスキーやジンの生産にも取り組んでいます。
こうした酒づくりにおいて、同社が大切にしているのは、「地域資源の活用」です。海と山に囲まれた環境も含め、この土地ならではの条件を生かしています。また、良いものを「つくる」だけでなく、その背景や思いをきちんと「伝える」ことにも力を注いでいます。
代表取締役社長の白井浩一郎さんに、サクラオB&Dのこれまでの歩みとこれから描く展望、そして酒づくりへの思いについて伺いました。
思いを語る、代表の白井さん
サクラオB&Dの前身である中国醸造が、桜尾に創業したのは1918年のこと。以来、清酒や焼酎、リキュール、みりんなどを手がけ、地域に根ざした酒類メーカーとして歩みを進めてきた。創業から2年後にはウイスキーの製造免許も取得し、国内でも早い段階から生産に取り組んでいた。しかし1989年、税制の変更により輸入ウイスキーが広く流通するようになると、蒸留を休止。ウイスキーづくりからは距離を置くことになる。
転機となったのは、創業100年を目前に控えたころだった。ハイボールブームをきっかけにウイスキーが再評価されるなど、市場環境が変わりつつあるなか、同社でも再びウイスキーづくりへの挑戦を模索し始めた。長いブランクのなかで原酒づくりのノウハウが失われていたため、プロジェクトチームを結成し、本場・スコットランドの蒸留所を訪問。技術だけでなく、ウイスキー産業の背景や文化に触れながら、自分たちが目指すべき方向性を探っていった。
その後、準備を重ねながら構想を具体化し、2017年、創業の地である桜尾に蒸留所を開設した。翌2018年には、蒸留所見学の受け入れを開始し、酒類やオリジナルグッズの販売に加え、見学の待合や試飲ができるSAKURAO DISTILLERY VISITOR CENTER(以下、ビジターセンター)も開設した。
同年には、「SAKURAO GIN」を発表。2021年にはシングルモルトジャパニーズウイスキー「桜尾」、さらに数年後には「戸河内」の販売も開始し、蒸留酒のラインナップを着実に広げていった。
こうした動きを背景に、2021年に社名を「サクラオブルワリーアンドディスティラリー」へと変更する。その名には、「創業の地である桜尾を拠点に、醸造酒も大切にしながら、蒸留酒づくりに力を注いでいく」という決意が込められている。
創業の地である廿日市市桜尾にある、蒸留所
社名は変わったが、酒づくりの姿勢は創業以来一貫している。酒類のジャンルを問わず、地元・広島の資源を生かすことを大切にしている。これまでも、広島の素材を用いた商品づくりに加え、地元の銘菓やプロ野球チームとのコラボレーションなどを展開してきた。
その姿勢は、現在の主力商品であるシングルモルトジャパニーズウイスキー・桜尾と戸河内にも色濃く表れている。いずれも桜尾の蒸留所でつくった原酒を用いるが、熟成をおこなう場所が異なる。白井さんは「ウイスキーの個性の約7割は、樽の種類や熟成期間、そして気温や湿度といった環境で決まると言われています」と話す。瀬戸内海にほど近い桜尾と、中国山地に位置する戸河内(広島県山県郡安芸太田町戸河内)という、広島ならではの自然環境の違いを生かし、それぞれ異なる味わいが育まれている。
桜尾は、瀬戸内海側の桜尾貯蔵庫で熟成される。夏と冬の気温差が大きい環境のもとで樽の呼吸が活発になり、原酒は樽の成分をしっかりと取り込んでいく。その結果、色合いは濃く、樽由来の香りが前面に出た、飲みごたえのある味わいに仕上がる。一方、戸河内が熟成されるのは、中国山地側。山あいの廃線になった鉄道トンネルを活用した戸河内貯蔵庫は、年間を通して冷涼で、穏やかに熟成が進む。色合いは比較的淡く、軽快でスムースな口当たりが特徴となっている。
ウイスキーが熟成環境という地域資源を生かしているのに対し、素材を通して広島らしさを表現しているのがSAKURAO GINシリーズだ。4種類展開で、いずれも広島産のボタニカル(蒸留酒の原料に用いられる香草類の総称)を軸に構成されている。
広島の資源を生かしてつくられたウイスキーとジンは、小売店や飲食店を中心に展開され、海外へも広がりを見せている。また、蒸留所に併設するビジターセンターでも販売中だ。ウイスキーを実際に飲んだ人からは、「コストパフォーマンスが高い」という声が多く聞かれるという。ウイスキーは高価なイメージを持たれやすいが、まずは手に取ってもらわなければ美味しさは伝わらない。価格設定への配慮も、サクラオB&Dのこだわりの一つだ。
サクラオB&Dでは、素材や製造工程といった商品の背景を、広く発信する取り組みにも力を入れている。その象徴が、蒸留所見学とビジターセンターだ。これらを始めるきっかけとなったのは、白井さんがスコットランドの蒸留所を訪れた際の体験。交通の便が良いとはいえない場所に、多くの見学客が訪れる光景を目の当たりにし、ウイスキー業界の特性を実感したという。「ウイスキーにはコアなファンが多く、そうした人たちの発信する情報が裾野まで広がって、ブランドが育っていく。ファンに情報を届ける場として、見学の受け入れは欠かせないと感じました」と白井さんは話す。
現在、サクラオB&Dがおこなっている蒸留所見学では、ウイスキーやジンを生み出す蒸留器を間近に見られる。さらに、ウイスキーが樽で熟成されている貯蔵庫に入ることも可能だ。貯蔵庫の扉を開けると、樽の木の香りとアルコールが混ざり合った、独特の空気に包まれる。静かな時間のなかで、酒が育っていることを実感できる。
見学は予約制の有料ツアーとして、原則毎日、1日3回開催。日本語に加えて英語のツアーも用意されている。1回の定員は12人で、蒸留工程や背景をじっくりと伝え、最後には試飲も楽しめる。少人数だからこそ、一人ひとりに向き合った案内ができ、満足度も高い。
一方、ビジターセンターでは、見学の待合や試飲に加え、酒類やオリジナルグッズを購入することもできる。蒸留所見学とセットで訪れるのはもちろん、予約なしでビジターセンターのみの利用も可能だ。気軽に立ち寄り、サクラオB&Dの商品や世界観に触れられる場となっている。
一方で、清酒については、チャレンジングな商品づくりにも取り組んでいきたいと考えている。市場は縮小傾向にあるものの、清酒は日本の食文化を支えてきた存在であり、次世代につないでいくべき大切なものだという思いがあるからだ。サクラオB&Dの前身である中国醸造は、かつて紙パック入りの清酒「はこさけ一代」で市場を驚かせた。「既存の枠にとらわれず、挑戦を大切にしてきた社風は今も変わりません。伝統を尊重しながらも、新しい発想で清酒の可能性を広げていきたいです」と白井さんは力強く語る。
その一方で、洋酒事業においても新たな挑戦が始まっている。現在、廿日市市吉和では、新蒸留所「SAKURAO DISTILLERY FOREST SITE」の整備が進められている。中国山地の豊かな自然に囲まれた環境のなかで、新たなウイスキーづくりに取り組んでいく考えだ。
施設には、蒸留所見学やビジター機能も設けられる予定で、ウイスキーの魅力や背景まで感じられる場所をめざしているという。蒸留棟はすでに完成しており、ビジター棟は2026年秋の完成を予定している。
サクラオB&Dでは今後も、広島の資源を生かしながら、ウイスキーやジンづくりを続けていく考えだ。同時に、蒸留所見学やビジターセンターを通じた発信にも、引き続き力を入れていきたいという。
広島の資源を生かし、つくり、伝える。サクラオB&Dはこれからも、地域に根ざした酒づくりを続け、その価値を飲み手へと届け、次の世代へとつないでいく。
蒸留所有料見学 予約専用ページ【https://www4.revn.jp/sakuraodistillery/】
・実施日/毎日(第2日曜日・お盆・年末年始・臨時休業日除く)
・コース/日本語:10:30~、15:00~ 英語:14:00~
・所要時間/90分程度
・料金/1名様 2,000円(税込)
・対象年齢/20歳以上(小さなお子様連れのご参加は不可)
2026年秋の完成が予定されている、新蒸留所「SAKURAO DISTILLERY FOREST SITE」

〒738-8602 広島県廿日市市桜尾1丁目12-1 地図を見る
TEL/0829-32-9122
営業時間/10:00~17:00
定休日/毎月第2日曜(臨時休業、お盆・年末年始の営業については、ホームページを要確認)
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