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三原市/広島

地域を元気にしたい。
「テロワール」を伝えるワインで
一次産業を次世代につなぐ

三原市/広島

太田 祐也_瀬戸内醸造所 株式会社

2024.05.08

中国・四国地方のほぼ中心、広島県の中央東部に位置する三原市。南部には穏やかな瀬戸内海が、北部には緑あふれる高原地域が広がる風光明媚な土地です。

そんな三原市の南部、JR呉線須波駅から車で3分ほど行った海沿いに一際目を引く建物があります。瀬戸内醸造所が運営する「醸造所」「レストラン」「ワインショップ」の併設施設です。

醸造棟・レストラン棟・屋根に囲まれた四角いエントランスを抜けると、眼前に開けるのは瀬戸内海屈指の多島美。その景色は一見の価値があります。また同施設では醸造見学やお酒と食事のペアリングを楽しむことができ、県内外から多くの人が訪れています。

瀬戸内醸造所が提供するお酒や食事は「地域の『テロワール(風土)』を伝えるもの」だと代表取締役社長の太田祐也さんはおっしゃいます。瀬戸内醸造所創業の経緯やお酒造りにかける思いについて、太田さんにお聞きしました。

エントランスを抜けると、瀬戸内海の多島美が広がる

地域創生事業で痛感した一次産業の衰退

瀬戸内醸造所は「一次産業を元気にして地域を活性化したい」という太田さんの思いからつくられた会社。太田さんは今から15年前、東京で地域創生の会社を立ち上げた。地域創生とは地域の魅力を引き出すことで移住・交流人口などを増やし、地域を活性化する取り組みのこと。

地域の魅力にはさまざまなものがあるが「食」はその代表格だ。太田さんも幾度となく地域の食に注目し、ブランド化を目指してきたという。しかし肝心の食材をつくる農家が年々減少しており、かなわないケースが少なくなかった。

「一次産業が元気にならないと、地域は上手く回らないということを痛感しました」と太田さん。一次産業を次世代に継承する取り組みができないかと考えるようになっていった。

取材は海に臨む瀬戸内醸造所のデッキで

「テロワール」を伝えるお酒で地域活性化

一次産業の次世代継承について考え始めた太田さん。そんな折、趣味のロードバイクでしまなみ海道を走っていると「この島一つ一つにお酒があって、郷土の料理とペアリングできたら面白そう」という考えが浮かんだ。

「テロワール(風土)」を伝えるお酒を醸造し、郷土料理とペアリングすれば、素材を提供する、その地域の農家の力になるかもしれない。お酒を通して地域に興味を持ち、足を運ぶ人が増えれば地域活性化につながる可能性もある。そう考えたのだ。

「面白いことはやってみたらいい」という考えの太田さん。早速お酒を醸造すべく動き出した。目をつけたのはワイン。水を使わずぶどうのみで醸造するワインは、土地により育まれたぶどうが味の決め手となる。「テロワール」を伝えるのにうってつけだ。

太田さんの地元である三原市には、「仏通寺ぶどう」という総称で地域ブランド化してぶどう栽培に取り組んでいるエリアがあり、特に昔から生食用としてつくられていた「ニューベリーA」という品種に着目した。「この地のワインを醸造したい」と打診した当初、ぶどう農家の方々は一様に怪訝な顔をしたという。

「いい農業をしないと、いいワインは造れません。この土地の素晴らしさを、農業力の高さを広く知ってもらうために一緒にワインを造りましょう」と太田さんは力説。ぶどう農家の方々も次第に共感、協力してくれるようになった。

こうして2018(平成30)年に「テロワール」を伝えるワインが誕生した。その後、瀬戸内醸造所は法人化。三原だけでなく、さまざまな地域の果実を使ったお酒の醸造にも挑戦し、今では9地域の果実を使ったワインやシードルを提供している。

食中酒として楽しめる日本ワインを

瀬戸内醸造所の「テロワール」を伝えるワイン。その大きな特徴は日本食に合うことだという。具体的にどんな味がするのか尋ねたところ「塩味と出汁っぽさを感じられます」と太田さん。意外な答えに目を丸くする我々の様子を楽しむように「圃場の場所が影響しているんですよ」と笑顔で教えてくれた。

仏通寺ぶどうの圃場がある三原市高坂町には以前鉱山があった。そのため土壌にはミネラルが豊富に含まれており、そこに育つぶどうを醸造したワインは塩味を感じられるものになる。また竹原の農家が栽培するぶどうの品種キャンベル・アーリーの圃場は、瀬戸内海のすぐ近くに広がっている。海水の養分が凝縮されたぶどうになるので、ワインにすると出汁っぽさを感じるのだそうだ。

「日本人が食中酒として楽しめるワインを醸造したいんです」と太田さんは言う。例えば世界的ワインの産地であるフランスでは、フランス料理に合うどっしり重いワインが好まれる。だが日本人が普段口にする食事はフランス料理とは異なり、魚や野菜の出汁が効いた優しい味わいのものが多い。こうした日本食に合うワインの醸造を瀬戸内醸造所では目指している。

食事に優しく寄り添うようなワインは、若者のアルコール離れが進む今の日本にマッチするものでもあるだろう。瀬戸内醸造所が人気を集める理由はそこにもあるのかもしれない。

瀬戸内のテロワールを伝えるワインとシードル

問題はやるかやらないかだけ。一次産業を次世代に

地域の「テロワール」を伝えられるお酒は、ワインやシードルなどの果実酒以外にもある。例えば麦や水が味を大きく左右するウイスキーは、その代表格だろう。今後そうした他のお酒も醸造してみたいかと太田さんに尋ねると「やりたいですねぇ!」と力のこもった返事が返ってきた。お酒に限らず地域の素材を使った食べ物などもつくってみたいそうだ。

「面白いことをやりたいですね。やっちゃいけないなんて誰も言ってないわけで、結局はやるかやらないかだけなんですよ。ただし闇雲に手広くやるというのではなく、一次産業を次世代に継承する助けになるというのが大前提ですね」と太田さん。

実は太田さんがしまなみ海道を走りながら、お酒と郷土料理のペアリングを思いついたのは2017(平成29)年のこと。そして最初のワインが完成したのは2018(平成30)年。「やる」と決めた太田さんの推進力はすごい。瀬戸内醸造所から新たな発信がある日は、そう遠くないだろう。

太田さんが幼少時から見ていた三原の海を背景に

瀬戸内醸造所の世界観に触れて

今後の展開に期待が膨らむ瀬戸内醸造所。そんな瀬戸内醸造所の世界観を体感できるのが、三原市須波町にある「醸造所」「レストラン」「ワインショップ」の併設施設だ。

醸造所では見学ツアーを開催しており、スタッフからワインの醸造方法について説明を受けられる。レストランmioでは美しい瀬戸内海を眺めながら、ワインと瀬戸内料理のペアリングを楽しめる。料理の中には足がはやく、地域外に出回ることがほとんどない小魚を使ったものもあり、瀬戸内ならではの食の魅力を堪能できるはずだ。

「ここは体験する場所。瀬戸内醸造所の世界観に触れることができるフラッグシップのお店なんです」と太田さん。ワインを入り口に、食事を楽しみ、地域を見渡す。そんな体験ができる場所だという。醸造所見学ツアーやレストランmioの利用を通して、瀬戸内醸造所の世界観に触れてみてはいかがだろうか。

ワイナリー[醸造所/レストランmio/併設ワインショップ]

〒723-0031 広島県三原市須波西1-5-26 地図を見る

営業時間(レストランmio)/11:30〜17:00
([完全予約制]ディナー営業時間/17:30~21:00)
営業時間(併設ワインショップ)/11:00〜17:00
定休日/毎週火曜・水曜日

※貸切や他作業のため休業日の場合もありますので詳しくは瀬戸内醸造所公式サイトをご確認ください。

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