廿日市市/広島

瀬戸内の恵みを、まるごと味わう
レモンで伝える、地元への感謝と志
宮島口発・クラフトレモネードの挑戦

廿日市市/広島

谷 諭_瀬戸内クラフトレモネード

2025.07.23

広島県廿日市市宮島口は、世界遺産・厳島神社を有する宮島の玄関口です。フェリーの発着地として、多くの観光客が行き交い、にぎわいを見せています。

その宮島口でレモネードブランド「瀬戸内クラフトレモネード」を展開しているのが、株式会社パソンです。「広島のレモンを丸ごと味わう」をコンセプトに、大崎上島産のレモンを皮ごと使用した、ハンドメイドの「食べるレモネード」を製造。広島駅ekie内のしま商店や各地の蔦屋書店のほか、自社オンラインショップ、JR宮島口駅から徒歩5分の製造所兼直営店などでも販売しています。

代表取締役社長の谷 諭(さとし)さんは廿日市市の出身。東京のデザイン学校を卒業後、カフェや広告代理店での勤務を経て地元にUターン。それまでのキャリアで培った知見や技術を最大限に生かし、生まれ故郷に貢献すべく、瀬戸内クラフトレモネードを生み出しました。

これまでの歩みや今後の展望、こだわりのレモネードの魅力について、宮島口にある製造所兼直営店を訪ね、谷さんにお話を伺いました。

宮島口にある店内で語る代表の谷さん

レモネードで地域貢献を

谷さんは廿日市市で生まれ育ち、18歳で上京してデザイン学校に進学。卒業後はそのまま東京に残り、カフェの店舗スタッフとして働き始めた。接客や店舗運営に携わる一方で、メニューブックや広告物のデザインも任されるようになり、現場の経験を通じて実務の幅を広げていった。その後、大手CDショップチェーンで新規事業開発に携わり、さらに食品会社をクライアントとする広告代理店では営業も担当した。

東京で異なる分野に挑戦し、キャリアを積み重ねていったが、今から5年ほど前、家族との暮らしを見据えて廿日市市にUターン。新たな挑戦として選んだのが、レモネードの製造・販売だった。

レモネードを選んだ理由は「生まれ育った地元に恩返しをしたい」と思ったから。当時、広島ではレモン農家の担い手が減少していた。「まずは広島産レモンの魅力を伝えることが、消費を広げ、産地への関心を高める第一歩になる」と考えた谷さんは、東京のカフェでレモネードを提供していた経験を思い出す。そして「広島はレモンどころで、レモンを使ったケーキやイカ天はあるが、レモネードは全然ない。でも、レモンの魅力を直に伝えられるのはレモネードだ」と感じ、レモネードの製造・販売を通じて地元への貢献を果たすと決意した。

谷さんの経験と思いで誕生した「廣島クラフトレモネード」

キャリアを生かして夢を形に

レモネードの製造・販売に向けて、谷さんは拠点となる物件の確保に動き始めた。しかし、間もなくコロナの流行が本格化し、思うように物件を探すことができなくなってしまう。そこで考えたのが、自宅のキッチンでつくる「レモネードの瓶詰め」だった。自宅のキッチンなら新たな物件を借りる必要がなく、瓶詰めにすれば他店の店頭に置いてもらったり、オンラインで販売したりと、販路の選択肢も広がる。「今できることから始めよう」と、自宅での試作を重ねていった。

そして、わずか3〜4ヶ月で「瀬戸内クラフトレモネード」として商品化を実現する。短期間で形にできたのは、「これまでのキャリアで培ってきた力を生かして、自走できたことが大きかった」と谷さんは話す。カフェでのレモネードづくりはもちろん、メニューブックや広告物のデザイン経験を生かし、ラベルのデザインも自ら手がけた。

さらに、これまでに培った力は販売面でも発揮された。広告代理店で身につけたマーケティングの知見を生かしてホームページを立ち上げたところ、オンラインでの露出が増加。それが蔦屋書店の目に留まり、販売が決定した。加えて、営業経験を生かしてジェイアールサービスネット広島に働きかけた結果、同社が運営する広島駅ekie内のしま商店での取り扱いが実現した。

瓶詰めで販路を広げていく中、2023年にはコロナの影響が落ち着き、宮島口に当初の目標であった拠点「MIYAJIMAGUCHI LEMONADE LABORATORY」の設立も果たした。露地栽培レモンの収穫時期に合わせ、12〜5月は製造所として稼働し、6〜11月は店舗として営業。製造と販売を一体でおこなう、季節で姿を変える拠点だ。店舗の営業期間中は商品の購入はもちろん、カップ入りのレモネードをテイクアウトで楽しめる。谷さんにとって、お客様との対話を通じてレモネードへのこだわりや地元への思いを直接伝えられる、大切な場所だ。

積み重ねてきた歩みは、レモネードに結実し、今、谷さんと地元を結ぶ架け橋になりつつある。

6~11月の期間限定オープンする「MIYAJIMAGUCHI LEMONADE LABORATORY」

ひと瓶に、広島レモンの魅力を込めて

瀬戸内クラフトレモネードは、「広島のレモンを丸ごと味わう」をコンセプトに、大崎上島の契約農家から直送されたレモンを、皮ごと砂糖に漬け込んでつくられている。谷さんによると、大崎上島で出会ったレモンは、皮まで美味しく感じられたという。その魅力を損なわないよう、加熱加工はおこなわず、浸透圧によってじっくりと1週間熟成させた後に瓶詰め。熟成期間中は毎日手作業でかき混ぜながら、丁寧に仕上げていく。また、レモンのタネとヘタだけを取り除き、それ以外の部分は使い切るため、フードロスの削減にもつながっている。こうした製法もまた、谷さんの思いが詰まったこだわりの一つだ。

レモンの味を引き立てる工夫は、砂糖の配合にも表れている。徳島の阿波和三盆糖を含む5種類をブレンドし、レモンの風味を損なうことなく、ジューシーな味わいを実現した。

楽しみ方はさまざまで、水やお湯、炭酸水、お茶で割るのはもちろん、バニラアイスなどのスイーツと合わせても相性が良い。また、お酒のおつまみとしても楽しめる。谷さんは、スタンダードな「廣島クラフトレモネード」のシロップと刻んだ皮をクリームチーズに練り込み、ブラックペッパーをふりかけ、生ハムと合わせてお酒と一緒に味わうのが好みだという。アレンジの幅が広いのも、瀬戸内クラフトレモネードの大きな魅力だ。

コーヒーレモネード(左)、オリジナルクラフトレモネード(中)、廣島ミルクレモネード(右)

瀬戸内の魅力を「渡し伝える」

瀬戸内クラフトレモネードを実際に口にしたお客様からは、「美味しい」「皮が美味しくてリピートした」といった声が寄せられている。こうした嬉しい声を励みに、谷さんは今後も「広島のレモンを丸ごと味わう」というコンセプトをぶらすことなく、丁寧にレモネードづくりを続けていきたいと考えている。

また、今後はレモンに限らず、瀬戸内エリアのさまざまな食材にも目を向け、新たな商品展開も視野に入れている。その際には、食材の生産者を支えるような形で関わっていきたいという。瀬戸内エリアには魅力的な食材を手がける生産者が多い一方で、パッケージデザインや販売手法に悩み、商品化に苦労しているケースも少なくない。そうした生産者から食材を仕入れ、商品開発やデザイン、販売を手がけることで支援したいと考えている。「小規模の生産者さんが、無理なく事業を続けていけるようにサポートできたら嬉しいですね」。谷さんの言葉には、地域とともに歩もうとする確かな意志が感じられた。

谷さんが代表を務める会社の社名は「パソン」。「Pass on」からくる造語で、「渡し伝える」という意味を持つ。瀬戸内クラフトレモネードは、瀬戸内の価値を多くの人に「渡し伝える」谷さんからのバトンでもある。瀬戸内の魅力と谷さんの思いが詰まったひと瓶を、ぜひ手に取り、味わってみてほしい。

店内にはレモネードをパウダー状にした商品も並ぶ

MIYAJIMAGUCHI LEMONADE LABORATORY

〒739-0411 広島県廿日市市宮島口1-6-7 1F 地図を見る

営業期間/10:00~17:00
定休日/火曜日、水曜日
※例年6~11月の期間限定オープン。
 営業期間の詳細は公式サイトをご確認ください。

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